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△知床半島で調査のために許可を得て捕獲されたオオムシクイ。

3月16日に、2024年3月の鳥のサイエンストークを実施しました。これまでと同様にYoutube liveを用いたライブ配信で行いました。今回は、山階鳥類研究所研究員の齋藤武馬さんに「独立種となったオオムシクイは北海道のどこで繁殖するのか?」と題してお話しいただきました。

オオムシクイは、スズメ目ムシクイ科に属する小鳥で、最近までメボソムシクイと同種であると考えられていました。齋藤さんたちが2010年に出版した研究により、ユーラシア大陸から日本にかけて分布しているメボソムシクイ上種は、ユーラシア大陸に広く分布するコムシクイ、ロシアのカムチャッカ半島から千島列島およびサハリンに分布するオオムシクイ、本州から九州に分布するメボソムシクイの3種に分けられました。

この3種は形態にわずかな違いがみられるものの、その外見から見分けるのは非常に困難です。しかし、鳴き声は大きく異なっており、コムシクイは「ジジジ…」と単調な声で、オオムシクイは「ジジロジジロ…」と聞こえるリズミカルな声で、メボソムシクイは「ジジジュリ、ジジジュリ…」と「銭取り、銭取り」と聞きなされる声でさえずります。

オオムシクイは、カムチャッカ半島、千島列島、サハリンが主な分布域であると考えられてきましたが、北海道でも繁殖期に見つかっています。本種は春の渡りの時期が他の多くの小鳥よりも遅く、5月下旬から6月中旬ごろまで中継地である平地の林で見られます。そのため、繁殖地かどうかの判別が他の鳥より難しいと考えられています。加えて、森林限界の山地で繁殖するために調査が難しいことから、正確な繁殖分布は長らく明らかになっていませんでした。

齋藤さんは、環境省レッドリストの見直しに伴う調査のため、北海道において過去の文献に繁殖期の記録のある地域を絞り込み、現地調査を行いました。まず、これまでにも繁殖期に多く記録されてきた知床半島では、2019年と2020年に、知床連山、斜里岳、藻琴山、海別岳、知床沼の5つの地域で計20羽を観察し、3羽の成鳥を捕獲しました。さらに、餌運び中の成鳥を確認できたとのことで、これらの地域では繁殖していると考えられました。確認地点のは900〜1500m付近の森林限界より少し高い標高で、ダケカンバやハイマツなどが生育する高山帯の植生だったとのことでした。密度は全体的に低く、正確な個体数は不明であるものの、分布域全体でも1,000羽に満たないと思われるとのことです。

もう1地域、繁殖期の目撃情報のあった日高山系のペテガリ岳、芽室岳、バンケヌーシ岳の3か所では、2023年に行った現地調査では確認できなかったとのことでした。今後は、知床半島内で十分に調査できていない地域での生息確認調査を行うことや、別の年に繁殖期の目撃情報のある日高山系の芽室岳での再調査を行うことなどが課題だそうです。

講演のあとに、知床半島での低い生息密度や、知床半島だけに分布している原因、オオムシクイの繁殖地間での鳴き声や形態の違いなどについてご質問をいただき、齋藤さんにわかりやすくお答えいただきました。

今回のオンライン講演は、最大同時に72人の方に視聴いただきました。ご視聴いただいた皆様、ありがとうございました。今回のお話しは、3月30日(土)まで見逃し配信を行います。配信したURLと同一の以下のリンクよりご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=CRr8nGZsqqc

次回、4月の鳥のサイエンストークは、山階鳥類研究所の千田さんに、標識調査に用いられる足環と、その解読にまつわるエピソードなどをお話しいただきます。配信方法などについては、山階鳥類研究所・我孫子市鳥の博物館ウェブサイトで改めてご案内します。次回もぜひご視聴ください。

参考資料:
メボソムシクイの分類に関する齋藤さんの論文
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjo/61/1/61_1_46/_article/-char/ja/