January24日Wednesday: 2024年1月の「鳥のサイエンストーク」を実施しました!
▲伊豆諸島の鳥島から小笠原諸島の聟島に移送されたアホウドリのヒナ
1月20日に、2024年1月の「鳥のサイエンストーク」を実施しました。これまでと同様にYoutube liveを用いたライブ配信で行いました。今回は、山階鳥類研究所の平岡 考さんに、「北西太平洋の美しい海鳥アホウドリの歴史と未来」と題してお話しいただきました。
アホウドリは、ミズナギドリ目アホウドリ科に属する北太平洋で最大の海鳥で、翼を広げた大きさは2m以上に達します。かつては北西太平洋に数多く生息していましたが、人間による乱獲によって減少してしまいました。現在では国指定の特別天然記念物や、種の保存法などの指定を受けて保護されています。今回は、アホウドリと人間の関わりの歴史を振り返り、今後必要な取り組みについてお話しいただきました。
現在のアホウドリの繁殖地は、伊豆諸島の鳥島、沖縄県の尖閣諸島、再導入が行われている小笠原諸島の聟島の3か所のみですが、かつては小笠原諸島や大東諸島、台湾周辺の島々などにより広く分布しており、その個体数は数百万羽に及んでいたと考えられています。
全国各地の縄文時代から近代の遺跡からもアホウドリ類の骨が出土しており、礼文島の遺跡からはアホウドリ類の上腕の骨を加工して作られた針入れも出土しています。江戸時代には、漂流した漁師が鳥島にたどり着き、島を埋め尽くすように生息していたアホウドリについての記録も残っています。また、1840年頃に編纂された「梅園禽譜」には、江戸の市中に迷行したアホウドリの巣立ち直後の幼鳥の記録も残されています。
時代は進み、明治時代になると、資源を求めて海洋島の開発が進みました。簡単に捕獲でき、大きな体から大量の羽毛が手に入るアホウドリは、羽毛布団の原料として乱獲され、1903年までに5,000,000羽ほどが殺されたと推定されています。山階鳥類研究所の創設者である山階芳麿博士は、1929年に鳥島を訪れ、約2000羽が生息していたことを映像とともに記録に残しています。山階博士の調査結果を受けて1933年に鳥島は禁猟区に指定されましたが、その直前に駆け込み的な大量の捕殺があったとされています。
第二次世界大戦に入ると詳細な生息状況は不明になってしまいましたが、戦後になって1949年3月から4月にGHQのオリバー・オースチン氏が海上から調査を行いました。この時、繁殖期であるにも関わらずアホウドリの姿が見られないことから、「絶滅した可能性が高い」という主旨の報告を行いました。しかし、その2年後の1951年、鳥島に駐在していた気象庁の職員によって、約10羽が鳥島南端の燕崎にいるのが発見されました。この再発見を受けて、山階鳥類研究所の研究者が気象庁の船に便乗して鳥島に渡航し、標識調査が開始され、測候所が廃止になる1965年まで継続されました。
1970年代後半からは、長谷川博氏による調査活動が始まり、繁殖成功率などのデータを取られるようになりました。その結果、燕崎の急斜面で崩れた土に卵やヒナが埋まってしまうために巣立ち率が低いことが明らかになり、ハチジョウススキの移植などの環境整備が行われました。しかし、この取り組みはあまりうまくいかず、島内の別の場所に繁殖地を移す試みの重要性が高まっていきました。
長谷川氏は、デコイと音声を用いて海鳥の繁殖地を移動させた先行研究がアホウドリにも応用できると考えて日本に紹介しました。日本のバードカービングの草分けである内山春雄氏は、長谷川博氏のアイディアを聞いて、アホウドリのデコイの木型を作成し、山階鳥類研究所と協力して1991年から鳥島への設置が始まりました。この取り組みもなかなか成功しませんでしたが、2000年代後半になってようやく新繁殖地での繁殖が軌道に乗るようになって、島全体の巣立ち率の向上につながりました。
これまでの取り組みによって鳥島の中で2つの繁殖地ができ、個体数も安定してきました。しかし、鳥島は火山島であり、近年でもたびたび大規模な噴火が起こっており、噴火の時期によっては繁殖個体の全滅などのリスクもあります。また、尖閣諸島は政治的に不安定であり、モニタリングなどの調査を行うことができません。このような理由から、安定した第3の生息地への再導入の必要性が高まっていました。
そこで、かつての生息地であり、上記のような問題のない、小笠原諸島の聟島が移転先として選ばれました。2008年から2012年までの5年間に鳥島からヒナを移送し、巣立ち場所を覚えたヒナが同じ場所に戻る習性を利用して、この場所に繁殖地を形成しようという取り組みです。その結果、2016年に最初のヒナが巣立ち、それ以降も2023年までに11羽のヒナが巣立ちました。聟島への繁殖地の形成はまだ道半ばで、今後時間をかけて取り組みを継続していくとのことです。
鳥島では2022-23年の繁殖期には1088羽のひなが確認され、総個体数は7900羽以上まで回復しました。しかし、この増加を受けて、公的な調査の予算は削減される傾向にあるそうです。個体数は回復傾向にあるものの、近年の研究によりアホウドリは2種が含まれることが判明したことによる様々な新たな課題の解決に向けた調査や、人間活動による悪影響の調査を行うため、鳥島でのアホウドリを毎年調査する必要性は失われていません。
そこで、山階鳥類研究所では、アホウドリの保全活動とモニタリングを継続するためのマンスリーサポーター(500円/月)の募集を始められました。詳しくは、以下のウェブサイトからご確認ください。
https://www.yamashina.or.jp/albatross/kifu.html
講演のあとに、小笠原に導入された集団に2つの系統が含まれることの問題についてご質問をいただき、平岡さんにわかりやすくお答えいただきました。
今回のオンライン講演は、最大同時に62人の方に視聴いただきました。ご視聴いただいた皆様、ありがとうございました。今回のお話しは、2月3日(土)まで見逃し配信を行います。配信したURLと同一の以下のリンクよりご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=JP_gCzFX0zI
次回、2月の鳥のサイエンストークは、山階鳥類研究所の岩見さんに、標本製作の実演をしながらお話しいただく予定です。配信方法などについては、山階鳥類研究所・我孫子市鳥の博物館ウェブサイトで改めてご案内します。次回もぜひご視聴ください。
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