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▲夜の道路上に現れたアマミヤマシギ。

12月16日に、2023年12月の「鳥のサイエンストーク」を実施しました。これまでと同様にYoutube liveを用いたライブ配信で行いました。今回は、山階鳥類研究所の水田 拓さんに、「アマミヤマシギはどれくらい生きるか、どれくらい移動するか」と題してお話しいただきました。

鳥に足環などの目印を付けて寿命や渡りを調べる「鳥類標識調査」は、19世紀の終わりにデンマークで始まり、日本でも1924年に東京都でゴイサギに足環を付けられたことで開始されました。現在では、山階鳥類研究所が環境省から委託を受けて実施しています。1961年から2020年までに500種以上、620万羽以上の鳥に足環が付けて放されました。

鳥類標識調査では、生きていた期間や動いた距離だけではなく、鳥類のモニタリングに重要な個体数の推定や、絶滅危惧種の保全のために重要な生態の解明、鳥インフルエンザなどの動物由来の感染症の対策に必要な伝播経路の調査など、さまざまな情報を得ることができます。これらの情報は、生物多様性の損失を食い止める目標である「ネイチャー・ポジティブ」や、人間・家畜・野生動物の健康を一体として目指す「ワンヘルス・アプローチ」にも寄与するものです。

水田さんが活動されていた奄美大島では、アマミヤマシギを含むさまざまな固有種が生息しており、その保全に向けた様々な取り組みが行われています。アマミヤマシギは森林に生息するシギの仲間で、世界で奄美群島でのみ繁殖します。過去の森林伐採、マングースなどの外来の哺乳類による捕食、交通事故などが脅威であると考えられており、国内希少野生動植物種に指定されています。その保全のために、標識調査を含む個体群のモニタリング調査が2002年から行われています。

この調査は、夜間に林道上でアマミヤマシギを捕獲し、金属リングと色足環を使って標識した後、その個体を再び確認するという方法で行われました。調査は2003年から2018年まで主に5か所の調査地で行われ、5年程度で調査地を移動して行われました。704羽のアマミヤマシギに対して標識が行われ、そのうち258羽(37%)の個体が1回以上再確認されました。2回以上確認された個体は9%程度でした。

標識から再確認までの期間については、再確認された258羽のうち、69%にあたる178羽は1年未満での確認例でした。3年を越える再確認は14羽(5%)ほどで、最も長い放鳥から再確認までの期間は7年強でした。再確認までの期間には性別による違いはありませんでしたが、成鳥で放鳥した個体は幼鳥で放鳥した個体よりも再確認までの期間が長いという結果になりました。

標識場所から再確認した地点までの移動距離は、119個体でデータが得られました。これらのうち、84%が1,000m以内の移動であり、最も長い距離の移動例は3,112mでした。再確認までの時間と移動距離には顕著な関係は認められず、移動距離は性別によって大きな違いは見られませんでしたが、放鳥時に幼鳥だった個体は成鳥になるまでにより長距離を移動する傾向がありました。

再確認される個体の割合がそれほど高くないことからは、アマミヤマシギは同じ個体がいつも林道を繰り返し利用するわけではないらしいということが示唆されました。また、幼鳥は成鳥よりも再確認までの期間が短いことから、幼鳥は成鳥より死亡率が高い、もしくは、より遠くに分散していて再確認されづらいのではないかと考えられます。さらに、成鳥と幼鳥の移動性の違いからは、一度定着したらあまり移動しない、ということが示唆されました。

アマミヤマシギの標識調査のデータからは、再確認される鳥の割合を用いた個体数の推定や、より詳細な生存期間の推定を行うことができます。また、林道への出現傾向から交通事故の対策を行う、捕獲時の糞などの採取から食性を把握するなど、様々な発展が見込まれるとのことです。今後、保全に役立つこのような取り組みを視野に入れて標識調査を実施していきたいとのことです。

講演のあとには、アマミヤマシギの成鳥と幼鳥の形態的な違いや、なぜ夜間に道路に出てくるか、奄美大島以外の奄美群島での生息状況などについて、多くの質問やコメントが寄せられ、水田さんにわかりやすくお答えいただきました。

今回のオンライン講演は、最大同時に61人の方に視聴いただきました。ご視聴いただいた皆様、ありがとうございました。今回のお話しは、12月30日(土)まで見逃し配信を行います。配信したURLと同一の以下のリンクよりご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=zpN1WsmqBjs

次回、1月の鳥のサイエンストークは、山階鳥類研究所の平岡 考さんに、アホウドリのたどった歴史とこれからの保全についてお話しいただく予定です。配信方法などについては、山階鳥類研究所・我孫子市鳥の博物館ウェブサイトで改めてご案内します。次回もぜひご視聴ください。