null
△チュウジシギ雄成鳥の尾羽(20枚の個体)

10月21日に、2023年10月の「鳥のサイエンストーク」を実施しました。これまでと同様にYoutube liveを用いたライブ配信で行いました。今回は、鳥の博物館の小田谷が「ジシギの尾羽を調べてみたら」と題してお話ししました。

ジシギ類とは、チドリ目シギ科のうち、タシギ属とそれに近縁な数種を含むグループです。鳥の尾羽は12枚のものが多く、10枚や14枚のものもいますが、種の中での尾羽の枚数は比較的安定しています。ところが、ジシギ類は14枚以上の尾羽を持ち、近縁種の間でその枚数が異なること、種の中で様々な枚数を持つものがいることが知られています。しかし、その枚数ごとの頻度などに関する情報は乏しく、種によっては混乱が生じていました。

そこで、ジシギ類の種ごとの尾羽の枚数の変異を整理し、その原因を調べるため、標識調査の際に捕獲した生きた鳥の尾羽の枚数を数え、その形態(長さ、太さ、羽色)を記録する調査を行いました。2012年から2023年まで、4種のジシギ類について合計1241羽の尾羽を調査し、その枚数ごとの頻度を調べました。その結果、種ごとに以下のことが分かりました。

・タシギでは変異の幅は12−16枚で14枚の個体が最も多い
・オオジシギでは変異の幅は14−20枚で、16枚と18枚の個体が多い
・チュウジシギでは変異の幅は16−22枚で、18枚と20枚の個体が多い
・ハリオシギでは変異の幅は22−28枚で、24枚と26枚の個体が多い

チュウジシギでは、多くの文献に「尾羽の枚数は20−22枚」と記載されていますから、このことは実際の頻度の分布と異なっていることが分かりました。このことからは、尾羽が18枚の個体について、オオジシギなのかチュウジシギなのかは、他の特徴も併せて判断する必要があるという事がいえます。

それでは、種内で見られる変異は何によって決まっているのでしょうか?この問いについて、オオジシギとチュウジシギを対象に、詳しく調べてみました。これまでに、この2種では、先行研究によって、性別によって尾羽の枚数が異なることが示されていました。私の研究では、オオジシギについては年齢にかかわらずサンプルを収集し、チュウジシギについてはサンプル数を増やし、枚数以外の形態についても分析を行いました。

オオジシギ、チュウジシギともに、雄のほうが雌よりも尾羽の枚数が多い傾向がありました。特に、チュウジシギの尾羽が18枚の個体は、そのほとんどが雌でした。チュウジシギは2つの個体群で尾羽の枚数の頻度に大きな違いはありませんでしたが、西側の個体群のほうが21−22枚の個体の割合が高い可能性があります。尾羽の長さは、どの種でも成鳥のほうが幼鳥よりも長く、雄のほうが雌よりも長い傾向がありました。また、チュウジシギの個体群の間では、西側の個体群のほうが尾羽が短い傾向がありました。

尾羽の幅は、中央から5番目の尾羽で、オオジシギのほうがチュウジシギよりも顕著に太いことが分かりました。羽色の点では、両種ともに幼鳥のほうが成鳥よりも外側尾羽の地色の暗色部が淡く、白色斑が多い傾向にありました。尾羽の形状や羽色の性差についてはまだ詳しく調査できていませんが、雄のほうが雌よりも外側尾羽の湾曲が大きく、羽色が暗い傾向があるようです。

以上の事から、尾羽の枚数には性別による違い、尾羽の形状には性別と年齢による違いがあることが分かりました。チュウジシギの地域によるこれらの違いについては、これから調査を進めていきたいと考えています。
これらの様々な種内の変異を踏まえることで、より正確な種の識別や生息分布域の把握につながっていくことが期待されます。

講演のあとには、尾羽の計測の方法や、ジシギ類の外側尾羽の形状の生態的な意味などについて質問が寄せられ、小田谷からお答えしました。

今回のオンライン講演は、最大同時に133人の方に視聴いただきました。ご視聴いただいた皆様、ありがとうございました。今回のお話しは、11月4日(土)まで見逃し配信を行います。配信したURLと同一の以下のリンクよりご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=jnrWvyla7no

11月は鳥のサイエンストークはお休みです。次回、12月の鳥のサイエンストークは、山階鳥類研究所の水田さんに、アマミヤマシギの移動や寿命についての研究結果をお話しいただきます。配信方法などについては、山階鳥類研究所・我孫子市鳥の博物館ウェブサイトで改めてご案内します。次回もぜひご視聴ください。