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9月3日に鳥博セミナーをオンライン配信にて実施しました。
今回は北九州市⽴⾃然史・歴史博物館(いのちのたび博物館)学芸員の中原亨さんに「越冬地から切り拓くノスリ研究の新境地」と題してお話いただきました。

ノスリはカラスくらいの大きさの猛禽で、ネズミやモグラ、小鳥や昆虫などの小動物を食べます。日本にいるノスリ(学名Buteo japonicus)はかつてヨーロッパノスリ(Buteo buteo)の亜種とされていましたが、現在は別種扱いとなっています。日本には渡りをするものと渡りをしないものがいて、北日本にいるノスリは秋になると南に渡って越冬します。西日本で見られるノスリはほとんどが越冬個体です。

西日本で越冬するノスリはどのような環境で暮らしているのでしょうか?
中原さんたちの研究グループは、ノスリにGPSロガーを装着して、行動圏の広さや環境を調べてみました。行動圏の広さは地域や個体によってばらつきがあり、長崎の個体は福岡よりも狭い範囲を行動圏としていること、利用している環境は地域によって大きく異なることが分かりました。

また越冬地では、時々茶色いノスリが見られることがあります。普通のノスリは喉から腹にかけて白い色をしていますが、この部分が茶色いノスリの正体は一体何でしょうか。中原さんはこの茶色いノスリがユーラシア大陸の亜種(学名B. j. burmanicus)である可能性を考え、DNAの解析や繁殖地を探す追跡調査をはじめました。

九州で28個体のノスリを捕まえDNA配列を調べたところ、白い見た目のノスリ24個体は日本の亜種と一致し、茶色い見た目のノスリ 4個体は大陸亜種と一致する結果となりました。またGPSロガーの追跡調査では、茶色いノスリは全て朝鮮半島を渡ってロシアの方まで渡って行ったほか、白いノスリは北日本の方に渡っていったことが明らかになりました。
DNA解析とGPSロガーの結果から、茶色いノスリはユーラシア大陸の亜種であると言えるでしょう。
中原さんは、ノスリが上昇気流や追い風を利用して渡りをすることから、上昇気流の発生しない日本海を避けて渡りを行っている可能性を指摘し、大陸と日本の2亜種に分かれたのではないかと考察しています。

その他に、九州で越冬するノスリは基本的に1羽ずつの縄張りを持つことが多いのですが、まれに2羽が同じ縄張り内にいることを中原さんの研究グループは発見しました。一年中同じ場所にいる留鳥の地域では、つがいの2羽が冬も一緒にいる例はありますが、越冬地で2羽一緒にいることはとても珍しく、この2羽がつがいであるのか、どんな関係性なのかはよく分かっていませんでした。そこで、中原さんたちがこの”2羽どまり”を捕まえて追跡調査を行ったところ、この2羽は雌雄の組み合わせであったものの、繁殖期にはそれぞれ別の場所に渡って行ったことが分かりました。
2羽どまりのノスリは繁殖地が異なることから、おそらくつがいでは無いと考えられますが、兄弟などの血縁関係があるのか、浮気相手であるのか、冬だけの共同関係なのか、今後の調査で明らかにしていきたいそうです。

講演の後には、雌雄での行動圏の違いや調査方法についての質問が多く寄せられ、中原さんにお答えいただきました。
今回の鳥博セミナーは最大同時に252人にご視聴いただきました。ご視聴いただいた皆様ありがとうございました。

企画展「猛禽 −タカ・フクロウ・ハヤブサ−」では今回ご紹介いただいたノスリの他、様々な猛禽類の生態やからだの仕組みをご紹介しています。企画展は11月5日までの開催となっておりますので、ぜひ期間中にご来館ください。

今回の講演のレジュメはこちら