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△アホウドリのつがい(左2羽)と“センカクアホウドリ”のメス(右2羽) 撮影:今野美和さん

11日6日(土)に、第31回JBF鳥学講座をオンライン配信にて開催しました。今回は「『センカクアホウドリ』発見記」と題して、北海道大学総合博物館の江田真毅さんと、山階鳥類研究所保全研究室の富田直樹さんのお二人にお話しいただきました。

アホウドリは北太平洋で最大の海鳥ですが、人間による乱獲が原因でその数を減らし、一時は絶滅の危機に陥りました。繁殖地は伊豆諸島の鳥島と尖閣諸島の2か所だけになりましたが、多くの人や団体の保全活動によって、少しずつその個体数を回復させています。近年の研究によって、そんな絶滅危惧種であるアホウドリに2つのグループが含まれ、それぞれは別種に相当すると考えられるようになりました。今回は、その研究にかかわったお二人に、その研究にかかわる様々なトピックについて語っていただきました。

まずは、江田さんに「きっかけは考古鳥類学」と題して、アホウドリに2つの系統が含まれることの発見のきっかけをお話しいただきました。江田さんは、北海道の礼文島にある浜中遺跡から出土したオホーツク文化期(5世紀から12世紀ごろ)のアホウドリ類の骨に関する研究を進めていました。骨からの種同定に取り組む際に、出土するアホウドリの骨の大きさに変異が非常に大きいことに気が付きました。DNAの解析によって、この大きさの違いは遺伝的に異なる2つの系統と対応していることが明らかになり、さらに、現在の尖閣諸島産と鳥島産の個体から得られたDNAの違いとも一致しました。このDNA配列の違いの大きさは、他のアホウドリの姉妹種の組み合わせの遺伝的な違いの大きさに相当することがわかりました。すなわち、現在のアホウドリにも2つの遺伝的に大きく異なるグループが存在することが明らかになったのです。

続いて、富田さんに「決め手は鳥類生態学」と題して、これらの2つの系統が別種であることの研究についてお話しいただきました。富田さんたち山階鳥類研究所の調査チームは、アホウドリの最大の繁殖地である鳥島で、足環のついている個体(鳥島生まれ)と足環のついていない個体(尖閣生まれと推定される)の繁殖行動を観察し、番いの組みあわせを調査しました。この調査によって、同じ系統的なタイプ同士でつがいになる傾向があることがわかりました。さらに、鳥島系統の成鳥と尖閣系統の成鳥にジオロケータ(日出・日入などから位置を推定する小型記録計)を付けて非繁殖期の移動を追跡したところ、尖閣系統の個体は鳥島系統の個体が利用しなかったオホーツク海をよく使うことがわかりました。また、それぞれの系統の個体の形態を詳細に計測して解析したところ、尖閣系統の個体は鳥島系統の個体に比べて嘴が細長く、体の大きさが小さいことがわかりました。

このようにして、アホウドリには遺伝的にも形態的にも異なる2種が含まれることが明らかになりました。今後は、どのように2種の生殖隔離が起こっているのかを明らかにすることや、どのように尖閣諸島集団の保全や調査を進めていくかが課題とのことです。

講演のあとには、遺跡で出土するアホウドリはどのように捕獲されたものか、絶滅した繁殖地の集団はどちらの系統に含まれていたのか、確定していない2種の学名について今後どのように分類学的な手続きを進めていくのかなどについて、多くの質問やコメントが寄せられ、江田さんと富田さんにわかりやすくお答えいただきました。

今回の鳥学講座は、最大同時に133人の方にご視聴いただきました。お話しいただいた江田さんと富田さん、ご視聴いただいたみなさま、ありがとうございました。

11月7日(日)の24:00までの予定で見逃し配信が行われます。見逃した方、もう一度見たい方は以下のページにあるリンクからご覧ください。
http://www.birdfesta.net/jbf/online.html


参考資料:
当日のレジュメは、以下からご覧いただけます(PDF直リンク)。
http://www.yamashina.or.jp/hp/event/images/jbf211106resume.pdf

今回のお話のもとになったプレスリリース資料は以下よりお読みいただけます(日本語)
http://www.yamashina.or.jp/hp/p_release/images/20201120_prelease.pdf

今回のお話のもとになった論文は以下よりダウンロードして読むことができます(英語)
https://www.int-res.com/abstracts/esr/v43/p375-386/