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本日10月14日に、10月のテーマトークを開催しました。今回は、山階鳥類研究所自然誌研究室長の山崎剛史さんに、「鳥の系統学の今 -ハヤブサはワルぶったインコなのか」と題してお話しいただきました。

2012年に日本鳥学会が発行した「日本鳥類目録改訂第7版」では、かつてタカ目に分類されていたハヤブサが、独立したハヤブサ目となり、スズメとインコに近いグループに分類されました。このことは、「ハヤブサはインコの仲間だった!」とニュースなどでも取り上げられました。精悍なイメージのあるハヤブサが、かわいいイメージのあるインコに近いという事実は、一般の人にとっては衝撃だったようです。

そもそも、ハヤブサはなぜタカ目に分類されていたのでしょう。生物の分類は「自然な分類」、つまり、進化の枝わかれを反映した分類であることが求められます。かつては、生物の分類は外見の特徴を用いて行われていました。似た姿をしているものは、同じ共通の祖先から分かれてきたのだろう、という考え方です。ハヤブサとタカはともに昼行性で、鋭いかぎづめと嘴をもっています。これらの共通性から、古来から近縁な仲間であるとみなされていました。

しかし、その後、似た生態を持つ生き物は、類縁関係が遠くても似た見た目になるという現象に多くの人が気が付きました。たとえば、イルカとサメはそれぞれ哺乳類と魚類ですが、外見は良く似ています。このケースではともに水中を高速で泳ぐことに適応して似た外見をしていますが、骨格や呼吸系、繁殖の方法などは全く異なっています。このような形態の進化のことを「収斂(しゅうれん)」といいます。
解剖学の研究が進むと、ハヤブサとタカの頭骨や筋肉、卵殻の化学成分、翼の羽の換羽の順番など、さまざまな点で違いがあることが明らかになりました。しかし、これらの違いが分かっても、依然としてハヤブサはタカに最も近縁なグループであるとみなされ続けました。

2008年に、アメリカのハケットらがDNAの塩基配列を用いてほとんどの鳥の進化系統を明らかにしました。そこで初めて、ハヤブサはタカとは大きく異なり、インコ目・スズメ目と親戚のグループを構成することが明らかになったのです。その後に出版されたいくつかの論文でも、このグループ分けを支持する結果が出ているため、日本をはじめ多くの目録で、この分類が支持されています。

では、本当に「ハヤブサはワルぶったインコである」と言えるのでしょうか?
実は、最近より詳しく明らかになった進化系統では、ハヤブサを含む多くの陸鳥の共通の祖先は、捕食性であったと考えられています。その中から、カワセミ・ブッポウソウなどのグループとスズメ・インコのグループの2つが、非捕食性の生態に進化したのではないかと考えられています。つまり、ハヤブサはインコから捕食性に進化したわけではなく、むしろインコを含むグループが「牙を抜かれた」という方が理にかなっています。これは、精悍なイメージのハヤブサを愛する人たちにとって朗報と言えるかもしれません。

ハヤブサのお話に続いて、カワセミを含むグループの進化についてもお話しいただき、カワセミはフクロウとの共通の祖先から進化してきたことをご紹介いただきました。
近年のDNAの解析技術の向上によって、これまで良く分かっていなかった様々な鳥の類縁関係が明らかになってきました。今後も、鳥類の分類研究ではまだまだ新しい発見があることが期待されています。

小雨の降る中、54名もの方にお集まりいただきました。ご参加いただいたみなさま、お話しいただいた山崎さん、ありがとうございました。

*12/19誤った内容を修正しました。