今年5月の「てがたん」があった頃、我孫子市緑にて、家の玄関のドアから採集されたという、変わった生き物を頂きました。
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 ヤガタアリグモといい、アリによく似た(擬態した)クモの一種です(ハエトリグモ科)。脚の本数を数えてみて下さい。一番前の一対は、触角のようによく動かされているのですが、写真に撮って、動かない状態で改めて観察してみると、その付け根は頭ではなく、むしろ胸から伸びています。ですから、触角ではなくれっきとした脚で、8本脚なのです。けれども、アリのように小さい生き物ですので、よく見なければ、アリだと思って、気付かずに見落としてしまう人がほとんどでしょう。
 ちなみに、博物館内でこれを紹介したところ、クモが嫌いな人には、「たとえアリに似ていても、駄目なものは駄目!」と避けられてしまいました。恐らく、クモだと気付かなければ、まったく平気だと思うのですが…。

 その後、7月上旬のある日、「またクモがいたわよ!」と、博物館の事務室内にいた小さな生き物を、つかまえて下さった方がいらっしゃいました。
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 確かにアリに似ています。…といいますか、こちらはれっきとした6本脚です(触角を御覧下さい。一番前の一対は、ちゃんと頭の先から伸びています)。残念ながら、昆虫に間違いありません。しかし、よく見てみますと、実は、こちらもアリではなかったのでした。ルイスヒトホシアリバチといい、メスには翅がないというハチの一種です(アリバチ科。参考文献:『日本の昆虫1400』文一総合出版)。
 では、どこがアリと違うのでしょうか?『原色日本昆虫図鑑』(保育社)によれば、アリ科の働きアリは、胸と腹の間にこぶ状のもの(腹部第1節)があり(写真参照)、そのこぶが後ろにある腹部とはっきりと異なっていると書いてあります。つまり。昆虫は一般的には体が3つの部分に分かれているといわれますが、働きアリの場合には、その二つ目と三つ目の間に、こぶがあるのでした。
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 しかし、博物館の事務室で見つかった虫にはそれが見られないということで(写真参照)、 ここでもまた、よく似たものに騙されそうになりました(クモ×→アリ×→ハチ○)。しかし、そこで「クモ」とおっしゃって下さったのは、「普通のアリとはどこか違う」という雰囲気の違いが感じ取れたからに他なりません。そのような“勘”が働いたのは、確かに観察眼が鋭いといえます。
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 こういった“そっくりさん”を見破れるかどうかは、観察力が要求されます。しかし、逆に観察力を身につけることができれば、自然の少ない街の中であっても、意外とたくさんの秘密が隠されていることに気付くことができるのかもしれません。家の玄関のドアや、事務室の中といった、身近な場所にもいたのですから。
  生物の多様性が低下していると思われるのは、単に野外の自然が減っただけではなく、もしかすると、観察者の好奇心や識別能力の低下も、意外と、無関係とはいえないのかもしれません。