鳥のオスが繁殖期に求愛やなわばりの占有をアピールするために出す鳴き声を「さえずり」といいます。たとえば、有名なものではウグイス(写真参照)の「ホーッ、ホケキョッ」などがそれにあたります。

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 さえずりは、美しい声や特徴のある鳴き方のものが多いのですが、そのような声のすべてがさえずりとは限りません。たとえば、イソヒヨドリ(写真参照:オス)は美しい声でよく鳴きますが、注意して聞いていると、実は繁殖期以外でもよく耳にします。また、よく観察していると、メスも同じような声を出すことがあります。

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 実は我孫子市内でも、注意していると、我孫子駅周辺でイソヒヨドリがビルの屋上にある看板や避雷針にとまって鳴いているのを聞くことができます。

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 イソヒヨドリはその名のとおり、海岸に多い鳥ですが、近年、市街地での繁殖が確認されるようになってきています。関東ではまだそこまで多くはないのですが、関西では、内陸部の市街地でもよく見られるようになってきている地域があり、私が前に住んでいた和歌山県では、住宅地でもヒヨドリと同じくらい身近に見られるようになっていました。この鳥はオスとメスで模様がかなり異なっており、メス(写真参照:手前)は海岸の岩場の景色に溶け込めそうな色をしている一方で、オスはきれいな青色とレンガ色をしています。

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 その色が鮮やかなので、初めて御覧になった方は、一見すると、かごぬけ鳥や外来種と間違われてしまうかもしれません。しかし、実は在来種(日本にもともといた鳥)であるというのが興味深いところです。
 たとえば外来種の場合には、オオクチバス(ブラックバス)やセイタカアワダチソウなどのように、海外から生物が持ち込まれたことによって、それまで住んでいた生物が捕食に遭ったり、競争に敗れて生息地を奪われてしまうことがあります。そして、地域の生態系を変えてしまうことが心配されています。しかしイソヒヨドリの場合には、人為的に持ち込まれたわけではなく、むしろ自分から飛来しましたので、地域の環境のほうが先に変化したことによって、この鳥が侵入できる条件が揃ってきたと考えるのが良さそうです。
 イソヒヨドリは、元々は海岸に生息し、磯にある岩の隙間などに営巣します。

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しかし近年、コンクリートの高層建築が増えたことで、それに近いような隙間が都市の中にも増えてきたと考えられます。詳しいことはまだ分かっていませんが、最近になって、全国を対象にしたイソヒヨドリについての調査が行われるようになってきています。その中で当館でも、今年度から我孫子駅周辺での調査を本格的に開始しました。

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 それにしても、元々、海岸に多いはずの鳥がいったい何故、市街地でも繁殖をするようになったのでしょうか?市街地に営巣する利点の一つは、天敵が少ないことにあると考えられています。市街地には“ヒト”という、ヒト以外の生物にとってはある意味、地球上で最も恐ろしいと思われる生物が、高密度に生息しています。そして、肉食動物の中にはヒトを避けるものがいます。それを利用して、たとえばツバメのように、わざわざヒトがいる場所を好んで営巣に利用する鳥もいます。ツバメは、基本的に空家には巣を作りませんし、閑静な住宅街よりもむしろ、人や車がよく通る場所で多く巣が見つかります。

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 しかし、市街地には逆に、欠点もあります。最大の問題点は、自然が少ないので食物が少ないことと考えられます。そこで当館では現在、イソヒヨドリの巣の前で親鳥の帰巣を待ち、ヒナのためにエサをくわえてきたところを写真に撮って、イソヒヨドリの市街地における食性についてのデータを集めています。

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 ただし、街の中で建物に向けて望遠鏡やカメラをかまえている様子は、通行人にはかなり異様な印象を与えてしまいます。幸い、我孫子市民の皆さまは大変協力的で、営巣地にお住まいの方も撮影を快く許可して下さいました。本当に助かっております。お陰様で、調査は順調に進んでおりますが、決して怪しい者ではございませんので、我孫子駅周辺で「鳥の博物館」と書かれた腕章(写真参照)をしている者を見かけましたら、どうか、見かけてもそっとしておいて頂けますと幸いです。

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