先月、稲穂も色づき始めた谷津ミュージアムへ行った時のことです。
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 歩いていると、散歩をされていた女性の方から「何を探しているのですか」と声をかけられました。その方の話によると、ここでは最近、ヘビを見かけなくなったとのこと。確かに、アオダイショウやシマヘビ、さらにはその餌となるトノサマガエルやトウキョウダルマガエルの姿も見かけませんでした。
 けれども、それも悪くはないとのお話でした。女性の方からすれば、ヘビに会わなくて済む方が有難いのかもしれません。しかし、私は寂しさも感じました。皆さんは、いかがでしょうか?

 ところが、その方と別れてからさらに先へ進むと…。
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 いました!駄洒落ではありませんが、ホッとしました(…発戸…)。この夏は子どもが咬まれてニュースになりましたが、マムシやヤマカガシではないことを確認すると、さらに細部についても証拠写真を撮るために、手で掴みました。ちなみにここではヘビは合計7種の記録があり、セミより種類が多いことになります。
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 鳥類は羽毛、哺乳類は毛が体表を覆っていますが、爬虫類は「鱗(ウロコ)」に覆われています。このため保温効果はなく、冬は冬眠します。同じウロコでも、魚類は「ヌルヌル」という擬態語が使われるのに対し、爬虫類は乾燥しているので「スベスベ」です。その感触を現代風に言えば、「超、気持ちいい」という言葉がピッタリです(北島康介さんではありませんが)。ヘビは木に巻き付いてスルスルと上り、鳥の巣を襲います。ヒナたちにとっては一番の天敵かもしれません。しかし、人間にとってはこの「巻き付く」という習性が、時には有難いのだと思います。ヘビは人間の手にもからまり、指の間を滑り抜けるときには独特な感触があります。つまり、ペットと触れ合いたい人には最高なのです。ヘビには根強い飼育ファンがいて、ペットショップでは餌用の冷凍マウスも売っています(レンジでチンして与えます)。
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 ちなみに、今回見つかったのはヒバカリという種類でした。上の写真にもあるように、頭の後ろにある白い線が特徴です。咬まれるとその日ばかりの命だということで、この名が付いたそうなのですが、実際には毒はなく、それどころかむしろおとなしく、掴んでもあまり咬まれることはありません。このため、ハンズオンの格好の教材になります。当館でも以前、別の場所で見つかった個体を少しの間保管し、てがたんの際に、子どもに触らせてあげたことがありました。しかし現代の小学生は、全員がまだヘビを触った経験が無かったと言っていました。
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 そのときのヒバカリは、生きたまま保管し続けることが難しそうだったので、結局、元の場所に戻しました。ヒバカリは一種類の餌だけだとそのうちに食べなくなりますが、いくつかの餌をバランスよく与えなければならない為、飼育は難しいといわれます。もし、あれだけおとなしくて、しかも餌も簡単に食べてくれたのなら、今頃はとっくに絶滅危惧種になっていたことでしょう。たとえば「ヒバカリ」「販売」と入れてgoogle検索すると、野生個体を採集して販売している業者のホームページも出てきます(一匹数千円…)。別に絶滅危惧種ではなく、違法でもありませんが、やはり商売をする人もいるくらいですので、うまく飼えるかどうかは別として、好きな人はいるのだと思います。確かに、よく見てみると、顔もどこか愛嬌があります。
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 私も飼ってみたいという誘惑にかられましたが、生き物を持ち出してはいけない場所でしたので、逃がしてあげました。いつまでもこの姿が見られることを願いながら。
わざわざ強調することでもないかもしれないのですが、このような場所では決して持ち出してはいけません。たとえば、珍しい鳥を見つけると、ついつい停めてはいけない場所に車を停めてしまうバードウォッチャーも中にはいますが、珍しい生き物に出会うと、人は我を忘れてしまうこともあります。しかし、このような場所では、保全のために地道な作業を続けられている方々がいらっしゃることを決して忘れてはいけません。思い出だけを、心の中に大事にしまって帰るべきなのです。

 それにしても、握ったときの、指の隙間をすり抜けるあの独特な感触は、今でも手の中に残っています。