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2022年10月1日(土)に、令和4年度の鳥博セミナーをオンライン配信にて開催しました。今回は「カモとハクチョウの冬の暮らし」と題して、公益財団法人宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団の嶋田哲郎さんにお話しいただきました。

カモ科の鳥の仲間は体の大きさの異なる3つのグループにおおまかに分けることができます。小さいカモ類、中型のガン類、大型のハクチョウ類です。国内ではカモ類とハクチョウ類は比較的広い地域に渡来しますが、ガン類の飛来する地域は限定されます。今回は、カモ類とハクチョウ類の渡り、冬の暮らし、人とのかかわりについてお話しいただきました。

カモ科の鳥は公園の池などの身近なところにも飛来し、採食の行動をじっくり観察することができます。また、カモ類はカルガモを除き雌雄で羽の色が大きく異なり、冬につがいを形成することから求愛行動なども観察しやすいグループです。

冬に日本に渡来するハクチョウ類やカモ類は、どこからどのように日本にやってくるのでしょうか? 嶋田さんたちは、国内の越冬地で捕獲した鳥に発信機を装着し、彼らの繁殖地や渡りの経路を調査しました。その結果、オオハクチョウとコハクチョウでは繁殖地の緯度が異なり、前者はタイガ地帯の川の中流域、後者は北極海沿岸のツンドラ地帯で繁殖すること、両種の中継地や渡り経路はよく似ていることを発見されました。また、オナガガモやヒドリガモはマガモに比べて高緯度の地域まで渡りを行うことも確かめられました。

越冬期の生活についても、宮城県北部のフィールドで発信機を装着して調査を行われました。マガモやカルガモは昼間は沼で休息し、夜間になると周辺の水田や水路に飛んで行って採食すること、オナガガモでは年によっては給餌場所に夜も留まるものがいることがわかりました。オオハクチョウはハスの地下茎(レンコン)を好むため、一日中沼の中で採食していますが、水位が高くなってレンコンを採食しづらくなると、周囲の水田で落穂を食べることがわかりました。沼の水位が低く、多くのオオハクチョウがレンコンを食べた翌年夏には、ハスの群落が衰退し、沼の水質が改善したこともあったそうです。

湖沼の中に水草や魚などの餌があるかどうかが、その場所にいるカモ類の種構成を決めているため、沼のカモ類は環境の指標となります。伊豆沼では、カモ類のほとんどが沼の外で採食するマガモなどの種類で、沼の中で水草を食べるヒドリガモ、魚を食べるミコアイサの数は少ない状況が続いています。後者の個体数の減少には、外来生物であるオオクチバスによる小魚の捕食を通じた餌の減少が影響していると考えられており、実際に駆除によってオオクチバスが減ると、ミコアイサの個体数は回復に転じたそうです。

国内でも鳥インフルエンザへの対策のために、2000年代から感染リスクを増大させる野生の鳥への餌づけが制限されるようになりました。嶋田さんたちは、科学的な対策のために、餌づけが鳥たちにとってどのような影響を与えるのかを調査されました。給餌される餌のエネルギーと、鳥の個体数と体重から算出した代謝エネルギーの量を比較すると、厳冬期には餌づけだけでは消費カロリーをまかなえていないことがわかりました。このデータをもとに、餌づけの量をおよそ8割削減して餌場からの分散を促し、消毒などの措置を併せて実施することで、鳥インフルエンザの対策を行っているとのことです。

講演のあとには、カモがハクチョウの糞を食べる際の周辺の状況や、コロナ禍における観光客の減少による餌づけ量の変化、農耕の歴史とカモ類の個体数の変化などについて質問が寄せられ、嶋田さんにお答えいただきました。
今回の鳥学講座は、最大同時に88人の方にご視聴いただきました。お話しいただいた嶋田さん、ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。

今回の講演は10月15日(土)まで、鳥の博物館のYoutubeチャンネルにて見逃し配信を行っています。ご興味があるけれど見逃した方や、もう一度見たい方は以下のリンクからご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=o5glB9aM1Q8

企画展「手賀沼の鳥 ―環境と水鳥 いま・むかし―」では、今回ご紹介いただいたカモ科の鳥を含む手賀沼の水鳥たちの個体数の移り変わりについて展示しています。11月27日(日)までの開催ですので、ぜひ鳥の博物館にもお越しください。


参考資料
・今回の講演のレジュメ(PDF直リンク)
https://www.city.abiko.chiba.jp/bird-mus/gyoji/event/index.files/torihaku_seminar202210.pdf

・知って楽しいカモ学講座 −カモ、ガン、ハクチョウのせかい−
https://www.midorishobo.co.jp/SHOP/1598.html