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▲岩棚に作られたオオトラツグミの巣(ビデオカメラにて無人で十分な距離を保って撮影されたもの)。

4月16日に、2022年4月の「鳥のサイエンストーク」を実施しました。これまで「テーマトーク」として2011年より実施してきましたが、より内容が分かりやすい名称に変更して多くの方に視聴いただくため、今月からタイトルを改称いたしました。
これまでと同様にYoutube liveを用いたライブ配信で行いました。今回は、山階鳥類研究所自然誌・保全研究ディレクターの水田 拓さんに「目に見えるものだけを信じるな―奄美大島の絶滅危惧種オオトラツグミの巣の特徴―」と題してお話しいただきました。

鳥の巣は、卵を生み、ヒナを育てる構造物で、その形や場所は鳥のグループや種によって様々です。巣は動くことのできない卵やヒナを襲うことができるため、捕食者によっては容易に手に入るよい食物となります。そのため、巣の捕食は鳥の繁殖失敗の主な要因の一つになっており、捕食を避けるための色彩や行動が進化してきました。このような巣の特徴を調べることは、進化の研究だけでなく、絶滅危惧種の保全に際しても重要となります。

オオトラツグミは、日本鳥類目録7版では、日本本土に広く分布するトラツグミZoothera daumaの亜種とされています。オオトラツグミの姿は本土のトラツグミとよく似ていますが、囀りは大きく異なり、マミジロに似た「キョローン」という声が特徴です。森林伐採や外来種の影響によって数を減らしていましたが、近年では個体数が回復傾向にあります。

水田さんの研究によって、オオトラツグミの好む環境は、大きなスケールでは、標高と林齢が高く、広葉樹林の面積が広い森林が適していることがわかりました。一方、小さなスケールでは、巣は木の又に作ることが多く、3メートルほどの低い位置に作られていることが多いことがわかりました。しかし、水田さんによれば、この結果は「ちょっと慎重さを欠いていた」とのこと。それはなぜなのでしょうか。

オオトラツグミの巣の見つかり方には大きく分けて、(1)偶然見つかる場合、(2)親の行動を追跡して見つかる場合の2つがあります。これまでに(1)では62巣、(2)では44巣が見つかっています。これらの見つけ方によって、見つかる巣のタイプを比較したところ、(1)の方法で見つかる巣はより低い位置にあり、木の又に作られている割合が高いことがわかりました。(2)の方法で見つかる巣は比較的高い場所にあり、折れた幹の上や岩棚にある割合が高かったのです。オオトラツグミにとって林内の枯死木は重要な資源であるということも、この再解析によって明らかになりました。

目につくところにある巣は見つかりやすく、目立たない巣は見つかりにくいという、当たり前かもしれないことですが、得られた結果だけを見ていると見落としがちになってしまいそうです。このように、目につきやすいものだけをみて物事を判断すると、誤った結論を出してしまう可能性があるという教訓でお話を締めくくられました。

講演のあとに、巣の場所ごとの繁殖成功率の違いがあるかどうかや、実際に存在する巣の場所を偏りなく見つけるためにはどんな方法が考えられるかについて、視聴者の皆さんからのご質問をいただき、水田さんにお答えいただきました。
また、鳥の巣を観察・撮影するときの一般的な注意点についてもお話しいただきました。鳥の巣に近づくと、親鳥が抱卵や給餌のために巣に戻ることができない、人間のにおいを付けて捕食を誘発するなどの悪影響が懸念されるので、必要がない場合には巣に接近せず、必要がある場合も影響を最小限にとどめるような工夫が必要とのことです。

今回のオンライン講演は、最大同時に94人の方に視聴いただきました。ご視聴いただいた皆様、ありがとうございました。今回のライブ配信は、4月30日(土)まで以下のURLより見逃し配信を行います。
https://youtu.be/Au1X4QFEnPk

次回、2022年5月の鳥のサイエンストークは、山階鳥類研究所研究員の澤祐介さんに、ガン類の渡り追跡に関する最新の話題をお話しいただきます。
配信方法などについては、山階鳥類研究所・我孫子市鳥の博物館ウェブサイトで改めてご案内します。次回もぜひご視聴ください。