null

8月21日に、2021年8月のテーマトークを実施しました。これまでと同様にYoutube liveを用いたライブ配信で行いました。今回は、山階鳥類研究所の油田照秋さんに、「いかに自分の遺伝子を残すか 〜シジュウカラの繁殖戦略〜」と題してお話しいただきました。

鳥類は90%以上の種が一夫一妻の繁殖形態を持ちますが、1990年代からDNA解析による親子判定の研究が行われるようになると、その75%もの種でつがい相手以外の雄との子を残す「つがい外父性」と呼ばれる現象が発見されました。このような現象は一般的にみられることから、鳥類の繁殖システムの進化を研究する上で無視できないと考えられています。

雌がなぜつがい外交尾をして、つがい相手以外の遺伝子を自分の子に残そうとするのかについては、さまざまな仮説が提唱されていますが、その一つが、確実に卵を受精させるため、というものです。油田さんたちは、北海道で繁殖するシジュウカラを用いた操作実験で、この仮説を検証しました。

巣箱で繁殖するシジュウカラの1回目の繁殖で卵を擬卵に置き換えて繁殖を失敗させると、2回目の繁殖の時にヒナにどのくらいつがい外の雄の父性が含まれるのかを調べられました。その結果、1回目の繁殖で擬卵に置き換えたペアでは、2回目の繁殖の時により多くのつがい外父性が含まれる傾向があることがわかりました。このことは、1回目の繁殖がうまくいかなかったことを受けて、雌が確実な受精をするために積極的につがい外の雄と交尾を行っていることを示唆しています。この研究は、初めてこの仮説を実験的に検証したものといえるそうです。

講演のあとに、視聴者のみなさんとチャット機能を用いて質疑応答が交わされました。2回目のやり直し繁殖の時につがい相手を変えない理由や、雌はどのようにつがい外交尾を行う雄を選んでいるのかなどについて、質疑応答が交わされました。

今回のオンライン講演は、最大同時に204人の方に視聴いただきました。ご視聴いただいた皆様、ありがとうございました。今回のライブ配信は、9月4日(土)まで見逃し配信を行います。

次回、10月のテーマトークは、我孫子市鳥の博物館の小田谷が、ヤマシギの越冬期の生態についてお話しする予定です。視聴方法などについては、山階鳥類研究所・我孫子市鳥の博物館ウェブサイトで改めてご案内します。次回もぜひご視聴ください。

参考資料:

今回のお話のもとになった論文(英語)
Yuta T, Nomi D, Ihle M & Koizumi I. (2018) Simulated hatching failure predicts female plasticity in extra-pair behavior over successive broods. Behavioral Ecology 29: 1264-1270.
https://academic.oup.com/beheco/article/29/6/1264/5119825

論文のプレスリリース資料(日本語)
https://www.hokudai.ac.jp/news/181009_pr2.pdf

鳥類のつがい外父性に関する総説(英語)
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1046/j.1365-294X.2002.01613.x