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4月15日に、2023年4月の「鳥のサイエンストーク」を実施しました。これまでと同様にYoutube liveを用いたライブ配信で行いました。今回は、山階鳥類研究所の浅井芝樹さんに、「白い羽色異常はどういう仕組みで起きる?」と題してお話しいただきました。この講演は、2018年8月に鳥の博物館で開催した対面の講演会「テーマトーク」でお話ししたものの再演です。

鳥の羽毛の様々な色は、色素と構造色によって形作られています。鳥の持つ色素は主に2つで、鳥の体内で合成されるメラニン系(黒系のユーメラニンと褐色系のフェオメラニン)と食物由来で取り込まれるカロテノイド系の主な2系統に分けられます。構造色は、羽枝やメラニンの配列の構造によって発色する青や緑の羽色を形作っています。今回は、主にメラニン系の様々な異常によって羽色が白くなるメカニズムについて、大きく分けて以下の6つの仕組みをご紹介いただきました。(2)〜(6)の名称の訳語は浅井さんによるものです。

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(1)Albino アルビノ
遺伝的にメラニンを作る酵素を持たず、2種のメラニンをともに合成できないもの。全身が白く、眼も赤い。体の一部にメラニン由来の色が出ているものはアルビノではなく、しばしば「部分アルビノ」といわれるものは定義上存在しない。眼に入る光を遮ることができないので、飛翔に視力が重要な鳥では、野外での生存は難しいと考えられている。

(2)Leucism 色素配分異常
メラニン芽細胞の異常が原因で、色素細胞が正しく分布しないことによる羽毛の白化。2種のメラニンに影響し、左右対称な白化になりやすい。白化する羽毛は真っ白になり、中途半端にかすれた色にはならない。眼は黒い。

(3)Progressive greying 進行性灰色化
年齢とともに羽色が白くなる現象で、遺伝的でないものもある。病気などが原因で、換羽によってもとの正常な色に戻ることもある。左右対称でないことが多い。眼は黒い。

(4)Brown 褐色変異
メラニンのうち、ユーメラニンの構造が変化することによって起こる異常。フェオメラニンには影響せず、鳥の本来黒い部分が褐色に変化する。紫外線によって脱色されやすく、かなり白っぽくなることがある。眼は黒い。

(5)Dilution 淡色化
メラニンの量が減少することによって起きる異常。2種のメラニンがともに減少して全体に白くなるPastelと、ユーメラニンだけが減少して褐色になるIsabelの2つのタイプがある。Brownと同様に脱色されやすい。眼は黒い。

(6)Ino 色素欠損
2種のメラニンの構造が大規模に変形することによって、もとの黒色は褐色に、褐色は極めて薄くなる異常。淡色な個体は眼の色素も減少して赤っぽくアルビノに似るが、羽毛にはメラニン由来の色素がわずかに見えることで区別できる。しかし、野外だと脱色してしまっていることがある。眼はアルビノよりはずっとよく見えるので、野外でもアルビノよりは生存しやすい可能性が高く、野外で見られるアルビノのような個体の多くはInoである可能性がある。

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白い羽色異常の鳥を見ると、ついついアルビノと言ってしまいそうになりますが、実際には真のアルビノは野外ではほとんど見られないことや、眼が赤く見える場合もアルビノとは限らないことなど、白い羽色異常の鳥の呼び方には注意が必要というお話でした。

実際に野外で白い羽色異常の鳥をご覧になった際には、眼の色が赤いかどうか、白い異常な羽毛は完全に白いか、異常な白化部分は左右対称かどうか、褐色みは残っているかなどに注目すると、この6つの仕組みのいずれが原因となっているか絞り込めるかもしれません。
白い羽色異常は珍しいことですが、どのような特徴が生じているかによってその原因が異なることや、鳥の羽色がどのように形作られているかの仕組みまで想像できることはとても興味深いと感じました。

講演のあとに、異常な色の白い羽毛は換羽しても同じように生えてくるのかや、白い羽色異常では構造色はなぜ生じないのかなどについて、視聴者の皆さんからのご質問をいただき、浅井さんにお答えいただきました。

今回のオンライン講演は、最大同時に63人の方に視聴いただきました。ご視聴いただいた皆様、ありがとうございました。今回は、4月29日(土)まで見逃し配信を行います。配信したURLと同一の以下のリンクよりご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=uuOZjwSZPzs

次回、5月の鳥のサイエンストークは、山階鳥類研究所の澤さんに、発信機を用いて明らかになったガン類の環境利用についてお話しいただきます。配信方法などについては、山階鳥類研究所・我孫子市鳥の博物館ウェブサイトで改めてご案内します。次回もぜひご視聴ください。

参考資料:
今回のお話のもとになった論文(英語)

van Grouw H (2013) What colour is that bird? The causes and recognition of common colour aberrations in birds. British Birds 106: 17-29.

https://www.researchgate.net/publication/273348895_What_Colour_is_that_bird_The_causes_and_recognition_of_common_colour_aberrations_in_birds