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△翼を開いて走り出すヤンバルクイナ

2月18日に、2023年2月の「鳥のサイエンストーク」を実施しました。これまでと同様にYoutube liveを用いたライブ配信で行いました。今回は、山階鳥類研究所副所長の尾崎清明さんに「ヤンバルクイナを真の遺産とするために」と題してお話しいただきました。

ヤンバルクイナは、世界で沖縄島だけに分布する飛べないクイナの仲間で、1981年に山階鳥類研究所の調査チームによって新種として記載されました。しかし、発見されてから10年ほど経って1990年代に入ると、ヤンバルクイナの分布域の南限附近から姿を消しはじめ、分布域が縮小していきました。これは、外来種の捕食者であるフイリマングース(以下、マングース)の北上に伴うもので、ヤンバルクイナはこの影響を強く受けていたと考えられています。2008年には、マングースの糞からヤンバルクイナの羽毛が見つかり、直接的な捕食の証拠が得られています。

2006年に国際自然保護連合の専門家会議によって行われたシミュレーションによると、何の対策も行わなければ、2030年ごろまでにヤンバルクイナは絶滅してしまう可能性が高いものの、マングースを早期に排除できれば、当面の絶滅を回避できる可能性が高いとの予測がなされました。これに従って、2000年代からマングースの捕獲やフェンスの設置によるマングースの分布拡大の抑制の対策が始まり、現在までにやんばる地域におけるマングースの低密度化に成功しました。これにより、近年ではヤンバルクイナの個体数は回復傾向にあるそうです。

続いて、世界に分布する無飛翔性の絶滅危惧種のクイナ類の保全の例として、グアムクイナとロードハウクイナの例をご紹介いただきました。両種ともに、外来種の捕食者の影響で個体数を減らし、積極的な保全活動によって絶滅を免れているものです。これらの種の保全においては、外来種の捕食者のコントロールをしっかり行うことが重要だということが分かっています。

現在のヤンバルクイナの保全において大きな課題は、分布域が狭く生息可能な個体数が少ないことと、未だにマングースやネコなどの外来の捕食者の影響があることです。遺跡からの骨の出土や古い分布状況から、ヤンバルクイナのかつての分布域はより広く、沖縄島中部にも分布していたのではないかということが示唆されています。マングースを沖縄島全体から排除し、ヤンバルクイナをはじめとする固有の野生動物の生息可能な地域を拡大することが、やんばる地域の生態系を真の遺産として未来へ引き継いでいくことにつながるだろう、というお話で、講演を締めくくられました。

講演のあとに、無飛翔性の絶滅危惧種ではないクイナ科の鳥や、グアムクイナで行われているもともとの生息地ではない場所への再導入について、視聴者の皆さんからのご質問をいただき、尾崎さんにお答えいただきました。

今回のオンライン講演は、最大同時に58人の方に視聴いただきました。ご視聴いただいた皆様、ありがとうございました。今回は、3月18日(土)まで見逃し配信を行います。配信したURLと同一の以下のリンクよりご覧ください。
https://youtube.com/live/QEZUUFC-VDs

次回、3月の鳥のサイエンストークは、鳥の博物館の望月が、関東地方でみられる眉斑の薄いエナガの分布についてお話しします。配信方法などについては、山階鳥類研究所・我孫子市鳥の博物館ウェブサイトで改めてご案内します。次回もぜひご視聴ください。