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△かつて南鳥島で繁殖していたカツオドリ。

7月16日に、2022年7月の「鳥のサイエンストーク」を実施しました。これまでと同様にYoutube liveを用いたライブ配信で行いました。今回は、山階鳥類研究所研究員の小林さやかさんに「明治期の標本が語る―南鳥島の話」と題してお話しいただきました。

南鳥島は小笠原諸島に属する日本最東端の島で、1896年(明治29年)から人が移住し、グアノ(鳥の糞が堆積してできたもので、リンが多く含まれるため肥料として使われていた)や鳥類の剥製・羽毛の輸出などが行われていました。しかし、1902年(明治35年)7月にアメリカの帆船「ワーレン号」が領有を目的にハワイから南鳥島に向けて出港しました。これを察知した日本政府は軍艦「笠置」を派遣して海軍兵を南鳥島に配置し、ワーレン号を退けました。これを南鳥島事件といいます。

山階鳥類研究所の収蔵庫からは、この時期に南鳥島で採集され、東京帝室博物館(現在の東京国立博物館)に寄贈された標本が合計26点見つかりました。これらは、南鳥島事件で派遣された海軍軍人の秋元秀太郎と、南鳥島で剥製業を営んでいた上滝七五郎が東京帝室博物館へ寄贈したものでした。秋元は「南鳥島事件」で派遣された1902年7月から8月に標本を入手し、上滝は南鳥島で剥製業を開始した1900年から、標本を寄贈する1902年10月までに標本を入手したと推定されます。

再発見されたこれらの標本には、採集地がラベルに記載されていないものが10点含まれていましたが、小林さんは、帝室博物館の台帳と照合することで、標本の採集情報を復元し、学術的な価値を高める研究に取り組まれました。また、種が不明だった9点についても再同定を行われました。

この調査の結果、帝室博物館の南鳥島産の鳥類標本には11種が含まれることがわかりました。この中にはコミズナギドリやシロアジサシなど、現在の日本に繁殖地が知られていない種や、オナガミズナギドリやカツオドリなど、現在は南鳥島では絶滅してしまった種の標本が含まれることもわかりました。これまで知られている他の調査結果と併せて、当時の南鳥島の鳥類相がいかに豊かだったかの証拠となる貴重な標本群であることが分かったそうです。

講演のあとに、鳥類の剥製は現地で製作されていたのかや、南鳥島で行われた他の調査がなかったかどうかなどについて、視聴者の皆さんからのご質問をいただき、小林さんにお答えいただきました。今回のオンライン講演は、最大同時に62人の方に視聴いただきました。ご視聴いただいた皆様、ありがとうございました。今回は、7月30日(土)まで見逃し配信を行います。配信したURLと同一の以下のリンクよりご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=L0BtBomyb5g

次回、2022年8月の鳥のサイエンストークは、山階鳥類研究所研究員の千田万里子さんに、野生の鳥にまつわる法律についてお話しいただきます。配信方法などについては、山階鳥類研究所・我孫子市鳥の博物館ウェブサイトで改めてご案内します。次回もぜひご視聴ください。

参考資料:
小林さやか・加藤 克 (2022) 明治期の南鳥島産鳥類標本の情報復元.山階鳥類学雑誌 54(1): 103-139.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jyio/54/1/54_103/_article/-char/ja

*7/21に内容の修正を行いました。