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△標識足環を装着されるハマシギ(許可を得て捕獲されたものです)。

6月18日に、2022年6月の「鳥のサイエンストーク」を実施しました。これまでと同様にYoutube liveを用いたライブ配信で行いました。今回は、山階鳥類研究所研究員の齋藤武馬さんに「日本に渡ってくるハマシギはどこから来るのか?―DNA分析から繁殖集団を推定する―」と題してお話しいただきました。

ハマシギはチドリ目シギ科のうち小型の鳥で、日本では繁殖しておらず、渡りの途中で立ち寄ったり、越冬のためにやってくる渡り鳥です。国内で越冬しているシギ・チドリの中では最も数が多く、国内で3万羽程度が越冬していますが、その個体数は減少しているといわれています。ハマシギは北半球に広く繁殖分布し、10ほどの亜種に分けられています。そのため、それぞれの亜種がどこからどこに渡っているのかを調べることが、保全上の重要な課題となっています。

山階鳥類研究所では、環境省の委託を受けてシギ・チドリ類の渡り経路の追跡調査を進めています。これまでの研究で、日本国内で越冬するハマシギの多くはアラスカで繁殖する亜種キタアラスカハマシギであることがわかっています(参考資料の2019年5月のテーマトークの報告をご覧ください)。さらに、分布域からはユーラシア大陸で繁殖する別の3亜種(亜種ハマシギ、亜種カムチャッカハマシギ、亜種カラフトハマシギ)が渡来している可能性があることが指摘されています。しかし、ハマシギの亜種による羽色の違いは夏羽でしか明瞭ではないため、越冬期の国内での亜種の識別は容易ではなく、DNAを用いた解析が待たれていました。

国内や周辺地域で捕獲されたハマシギから採集されたサンプルについて、ミトコンドリアDNAのD-loop領域の配列を比較してみると、大きく分けて3つのグループに分けられました。(1)亜種キタアラスカハマシギのグループ、(2)亜種カラフトハマシギと亜種カムチャッカハマシギからなるグループ、(3)亜種カムチャッカハマシギと亜種ハマシギからなるグループです。このうち、国内で越冬していた多くの個体は(1)のグループに含まれましたが、渡り時期には(3)のグループに含まれる個体も見つかりました。(2)のグループに含まれる個体は、今回の解析では見つかりませんでした。

以上のことから、フラッグによる調査で分かっていた結果と同様に、国内で越冬するハマシギの多くは亜種キタアラスカハマシギである可能性が高いことが確認されました。また、亜種ハマシギや亜種カムチャッカハマシギも渡来の可能性があることがDNAによる解析結果からも示唆されました。しかし、今回調べた領域では、そもそも繁殖地で採取された同じ亜種のサンプルの中にも複数の遺伝子のタイプが見つかっているため、亜種についてははっきりとした結論を出すことができなかったとのことです。今後、さらに詳細な遺伝的な解析が進められれば、はっきりしたことがわかるかもしれません。

講演のあとに、遺伝的な解析手法や、亜種キタアラスカハマシギ以外の亜種の越冬する場所などについて、視聴者の皆さんからのご質問をいただき、齋藤さんにお答えいただきました。今回のオンライン講演は、最大同時に87人の方に視聴いただきました。ご視聴いただいた皆様、ありがとうございました。今回は、主催者側の都合により見逃し配信は行いません。見られなかった方には申し訳ありませんが、ご理解いただけますよう、よろしくお願いいたします。

次回、2022年7月の鳥のサイエンストークは、山階鳥類研究所研究員の小林さやかさんに、日本最東端の島である南鳥島で採集された鳥類標本についてお話しいただきます。配信方法などについては、山階鳥類研究所・我孫子市鳥の博物館ウェブサイトで改めてご案内します。次回もぜひご視聴ください。

参考資料:
2019年5月のテーマトーク「日本に渡ってくるハマシギの亜種はどれ?」
http://strix.in/blog/index.php?itemid=685