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△発信器付き首環を装着されたカリガネ(右)とマガン

5月21日に、2022年5月の「鳥のサイエンストーク」を実施しました。これまでと同様にYoutube liveを用いたライブ配信で行いました。今回は、山階鳥類研究所研究員の澤 祐介さんに「潮目が変わる!?ガン類追跡の今」と題してお話しいただきました。

ガン類はカモ目カモ科のうち中型の鳥で、日本には越冬のためにロシアなどから飛来する渡り鳥です。日本を含む東アジアには9種が生息しており、日本にはそのうちマガン、ヒシクイ、コクガンが比較的広い範囲に渡来し、シジュウカラガン、ハクガン、カリガネが局地的に渡来します。サカツラガン、ハイイロガン、インドガンは国内で定期的に越冬する群れは知られていません。

澤さんたちが調査を始めるまでに、国内で越冬する個体の渡り追跡が行われてきたのはマガン、ヒシクイ、コクガンの3種で、首環や発信機による追跡調査によって繁殖地、中継地や春の渡り経路などが明らかにされてきました。これに加えて、近年では次の3つのポイントをきっかけに、日本国内でのガン類の渡り追跡の研究が大幅に進展しているそうです。

(1)追跡機器の進化
これまではガン類の追跡には衛星発信機が主に使用されてきましたが、これは衛星通信の使用料がかかり、少数の個体しか追跡できませんでした。近年では携帯電話の通信網を利用した発信機が普及しており、比較的安価に多くの個体を追跡することができるようになりました。また、アンテナが内臓されているため、ガン類に装着した発信機を壊されにくくなったこともメリットだそうです。

(2)中国の研究者による大規模追跡研究
近年、中国の研究者によって東アジアの各種の追跡研究が発表され(以下の参考資料をご参照ください)、これによって日本で取り組むべき課題(カリガネの日本での越冬個体群の追跡や、ユーラシア大陸ではほとんど越冬しないシジュウカラガンやハクガンの追跡)が明確になったそうです。

(3)希少なガン類の個体数回復
カリガネ、ハクガン、シジュウカラガンの個体数はかつては非常に少ない状況が続いていましたが、特に後者2種は積極的な再導入活動や保全によって日本に渡来する個体数が大幅に回復しました。そのため、現実的に捕獲を行って追跡できる見通しが立ってきたとのことです。

このような状況を受けて、澤さんたちのグループでは2017年からコクガン、2020年からカリガネとマガン、2021年からハクガンとシジュウカラガンの追跡を開始しました。その結果、コクガンの繁殖地やこれまで知られていなかった黄海の越冬地の特定、カリガネの繁殖地や渡り経路の特定などの成果をあげられたそうです。ハクガンとシジュウカラガンは携帯電話の電波網の圏外に出たことによって現在の位置情報は不明となっていますが、秋になって電波の圏内に南下してくれば、繁殖地や渡り経路のデータが得られるだろうとのことです。これらの種の繁殖地や渡り経路が判明するのが結果がとても楽しみです。

講演のあとに、コクガンの黄海の越冬地での利用環境や、首環や発信機をかわいそうだと思う人にどのように説明しているかについて、視聴者の皆さんからのご質問をいただき、澤さんにお答えいただきました。今回のオンライン講演は、最大同時に101人の方に視聴いただきました。ご視聴いただいた皆様、ありがとうございました。今回のライブ配信は、6月4日(土)まで以下のURLより見逃し配信を行います。
https://www.youtube.com/watch?v=gtD5C1kdFfY

次回、2022年5月の鳥のサイエンストークは、山階鳥類研究所研究員の齋藤武馬さんに、日本に渡来するハマシギの亜種について、DNAを用いて推定した研究についてお話しいただきます。配信方法などについては、山階鳥類研究所・我孫子市鳥の博物館ウェブサイトで改めてご案内します。次回もぜひご視聴ください。

参考資料:
希少ガンのシンポジウム(2021年1月30日に開催されたもので、Youtubeで視聴できます)
https://www.youtube.com/watch?v=7eQ9rCozLEI

Wildfowl 2020年特別号 東アジアのガンカモ類の渡り(それぞれの英語論文をどなたでも見ることができます)
https://wildfowl.wwt.org.uk/index.php/wildfowl/issue/view/300