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1月18日に、2020年1月のテーマトークを開催しました。今回は、山階鳥類研究所自然誌研究室研究員の齋藤武馬さんに、「絶滅寸前?オガサワラカワラヒワの特徴とその保全」と題してお話しいただきました。

オガサワラカワラヒワは日本本土にも分布するカワラヒワの亜種の一つで、世界で小笠原諸島だけに分布しています。本土のカワラヒワに比べて、羽の色の黄色みが少し弱く、体が小さいことが特徴といわれています。
これまでに齋藤さんたちが行ったDNAバーコーディング(ミトコンドリアDNAの一部の短い配列を読むことで、生物の同定を行うための手法)の配列を用いた研究では、本土に分布する亜種カワラヒワとは、3%を超える大きな遺伝的な違いがあることがわかりました。これは、一般的には亜種の間の遺伝的違いよりも大きく、種のレベルの違いに相当するものでした。

そこで、齋藤さんたちは、オガサワラカワラヒワがどのくらいほかのカワラヒワの亜種と違うのかを調べるために、別の遺伝子をより詳しく調べたり、地域ごとに体の大きさの違いを調べる研究を行いました。
まず、バーコーディング領域とは異なる2つのミトコンドリアDNAの遺伝子の配列を調べると、オガサワラカワラヒワは他のカワラヒワの亜種と2.1-2.4%の配列の違いがあることがわかりました。また、他の亜種とは110万年(更新世の中期ごろ)も昔に分かれていたと推定されました。また、遺伝的な多様性はとても低いこともわかりました。

次に、博物館に保存されている標本を使って、体の大きさの違いを調査した結果についてお話しいただきました。カワラヒワの亜種は北方で繁殖するものほど体が大きくなる傾向があり、オガサワラカワラヒワはすべての亜種の中で最も短い翼をもっていました。しかし、くちばしの長さを測ってみると、どの亜種よりも大きいことがわかりました。すなわち、オガサワラカワラヒワはすべての亜種の中で最も体に対して大きな嘴を持っているということになります。これは、餌となる種子の少ない海洋島の環境で、ムニンアオガンピなどの木の種を食べることに適応した結果ではないかと考えられるとのことでした。

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▲オガサワラカワラヒワの雄成鳥。くちばしが比較的大きいことがわかる。

このように、遺伝的にも形態的にも他の亜種とは大きく異なるオガサワラカワラヒワは、別種とみなすのが妥当ではないかと考えられます。しかし、オガサワラカワラヒワの個体数は急激に減少しており、その絶滅が心配されているのです。かつて、オガサワラカワラヒワは小笠原群島と硫黄列島のほぼすべての島に生息していました。しかし、現在では母島列島の属島と南硫黄島に限られてしまっており、その個体数は合わせて400羽ほどと見積もられています。

その大きな原因となっていると考えられるのが、巣やヒナを襲う外来捕食者である大型のネズミ類です。小笠原諸島にはクマネズミとドブネズミの両方が人間によって持ち込まれていますが、実は、オガサワラカワラヒワが生き残っているのは、木登りの得意なクマネズミのいない島に限られています。現在生き残っている母島の属島でも、ドブネズミによって捕食されて数を減らしてしまっていると考えられています。
今後は、生息地である無人島でのドブネズミの駆除や、観察や標識調査によるモニタリングの継続、飼育下での人工繁殖に向けた遺伝的な多様性の把握などが課題とのことでした。

これほど危機的な状況ながら、まだまだ一般の人に存在が知られていないのがこのオガサワラカワラヒワです。地元の母島で活動されている川口大朗さんが作成されたオガサワラカワラヒワの保護を呼びかけるステッカーを会場で配布しました。ぜひ多くの人にオガサワラカワラヒワの状況を知っていただき、保全に向けた取り組みが少しでも進むことに期待したいと思います。

今回は、20名の方にお集まりいただきました。ご参加いただいたみなさま、お話しいただいた齋藤さん、ありがとうございました。