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6月15日に、2019年6月のテーマトークを開催しました。今回は、山階鳥類研究所自然史研究室専門員の平岡考さんに、「万国共通な学名が図鑑によって違うわけ〜キジやコウノトリはどうなってる?」と題してお話しいただきました。

学名は、多くの図鑑に必ずといっていいほど掲載されています。和名の横にアルファベットの筆記体で書かれているのを覚えている方も多いと思います。スズメならPasser montanusが学名です。スズメの英名はTree Sparrowといいますが、この他にもそれぞれの言語で呼ばれている名前があり、それらは全て俗名で、学名ではありません。

現在世界中で使われている学名は、国際的な規約によって使い方が定められており、属名と種小名の2つの名前で表記されることから、2名法と呼ばれています。この方法はスウェーデンのリンネによって導入され、世界中の生きものの命名に用いられています。
しかし、学名はラテン語で書かれているため、多くの人にとってはその意味を理解できないものです。では、なぜ学名は図鑑に書かれているのでしょうか?

たとえば、以下の3つの鳥
スズメ Passer montanus
イエスズメ Passer domesticus
ウミスズメ Synthliboramphus antiquus
は、いずれも和名に「スズメ」と付きますが、ウミスズメはスズメの仲間ではありません。学名を見ると、ウミスズメだけ属名が違うことが分かるので、これだけが遠縁の鳥だということが分かります。学名を見ると、どの鳥とどの鳥が近いグループなのかを読み取ることができるのです。
また、読むことのできない言語で書かれた書物でも、学名さえ書かれていれば、何の種についての記述なのかを知ることができます。

図鑑に書かれている学名が、文献によって違っていることがしばしばありますが、これはなぜなのでしょうか。たとえば、コウノトリの学名は山階(1986)ではCiconia ciconiaと表記されていますが、日本鳥学会(2012)ではCiconia boycianaとなっています。これは、日本に渡来する東側の集団boycianaを亜種とするか、それとも独立した種として扱うかによります。かつては中央アジアからヨーロッパに分布するシュバシコウCiconia ciconiaと同種の亜種として扱うことが多かったのですが、最近では別種として扱っているため、このような変化が起こっています。

一方、キジでは、山階(1986)ではPhasianus versicolorとなっていますが、日本鳥学会(2012)ではPhasianus colchicusとされています。コウノトリの場合とは逆に、かつては別種として扱われていたものが、同じ種内の亜種として扱われるようになったためにこのように学名が変化しています。最近では日本産のいくつかのキジの亜種を大陸のものとは別種として扱うことが多くなりましたので、再び元に戻る可能性が高そうです。

世界共通の名前である学名も、分類の説が変化することによって変わることが分かりました。一見ややこしく思えますが、分類の説が1つに決まれば学名も決まるので、学名を見ればどのような分類を採用しているかがわかる便利なものということもできると感じました。

今回は、18名の方にお集まりいただきました。ご参加いただいたみなさま、お話しいただいた平岡さん、ありがとうございました。