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2月10日に、2月のテーマトークを開催しました。今回は、山階鳥類研究所自然誌研究室研究員の齋藤武馬さんに、「南西諸島の鳥類の不思議をDNAから探る」と題してお話しいただきました。

南西諸島は鹿児島県から沖縄県にかけて約1200kmもの長さに渡って連なる島々です。生物の分布を研究する生物地理学では、南西諸島は旧北区と東洋区の境界に位置します。琉球列島は1500万年前には大陸の一部でしたが、その後、海面の高さの変化が起こると、大陸とから切り離されたり、くっついたりを繰り返してきました。南西諸島は、大隅諸島からトカラ列島までの北琉球、奄美諸島と沖縄諸島の中琉球、都諸島と八重山諸島の南琉球の3つに大きく分けられます。北琉球と中琉球の間にはトカラ海裂(渡瀬線)、中琉球と南琉球の間にはケラマ海裂(蜂須賀線)と呼ばれる深い海があります。海面が下がった時でも、これらの海裂によって島々のつながりが断たれて生物の分布の拡大の障壁となり、独自の生物相が形成されてきました。

南西諸島には、本土とは異なる種や亜種の鳥が分布しています。日本の固有種の11種の鳥のうち、7種が南西諸島に分布しており、固有の亜種も多く分布しています。齋藤さんが関わっている日本の鳥類のDNAバーコーディングは、国内に分布する鳥類のDNAの短い配列のデータベースを作り、羽一枚からでも簡単に種の同定が出来るようにするプロジェクトです。この研究にともなって、南西諸島の鳥類の系統関係などが明らかになってきました。

イイジマムシクイやアカコッコは、世界でも伊豆諸島と北琉球にだけ繁殖する、変わった分布を持つ鳥です。そのうち、遺伝子が調べられているイイジマムシクイは、伊豆諸島の集団とトカラ列島の集団で、4.8%もの遺伝的分化があることが分かりました。南西諸島にだけ分布するアカヒゲは、奄美以北に分布する亜種アカヒゲと、沖縄本島に分布する亜種ホントウアカヒゲの間に、深い遺伝的な分化があることが明らかになり、いくつかのチェックリストではすでに別種として扱われています。奄美諸島に分布するオオトラツグミは、現在はトラツグミの亜種とされていますが、囀りや形態が大きく異なることから別種とする意見もあります。DNAバーコーディングでも、大きな違いがあることが分かり、今後別種にされる可能性が高そうです。また、ヒヨドリについては、奄美・沖縄と大東諸島の集団が、それぞれ国内の他の集団に比べて大きく分化していることが明らかになっています。今後、分類学的な研究が行われていくことで、これらを種として扱うかどうかが決まっていくでしょう。

今回は、44名の方にお集まりいただきました。ご参加いただいたみなさま、お話しいただいた齋藤さん、ありがとうございました。