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5月15日に、2021年5月のテーマトークを実施しました。これまでと同様にYoutube liveを用いたライブ配信で行いました。今回は、山階鳥類研究所保全研究室研究員の澤祐介さんに、「ここまでわかった!東アジアのガン類の渡り」と題してお話しいただきました。

日本に定期的に渡来するガンの仲間は、マガン、ヒシクイ、コクガン、カリガネ、シジュウカラガン、ハクガンの6種です。これらの種の渡り経路については、どのくらいわかっているのでしょうか。

1980年代から行われた首環標識などを用いた調査によって、マガンやヒシクイの断片的な渡り経路は判明していましたが、追跡できた例数は多くなく、確実な繁殖地が不明なままの種があったり、保全の重要性の高い希少なガンについては情報が少ないままでした。

ガン・カモ専門の研究誌「Wildwowl」の2020年に出版された巻では、日本産のガン類を含む東アジアのガン・カモ類についての渡り経路や個体群動態の論文が掲載されました。今回はこの研究誌に掲載された最新の渡り経路の情報や、澤さんたちのこれからの研究の展望についてお話しいただきました。

これらの研究では、マガン62羽、ヒシクイ156羽(亜種オオヒシクイ22羽、亜種ヒシクイ134羽)、カリガネ19羽、コクガン11羽の追跡結果などをもとに、東アジアでの渡り経路がどのようになっているのかを報告しています。このうち、コクガンでは澤さんたちの研究によって、日本に渡来するコクガンの春と秋の渡り経路が異なること、野付半島が重要な中継地になっていることが分かったそうです。

将来の課題として、日本で越冬する個体の追跡数の少ないマガンの渡り経路の経年変化やヒシクイの繁殖地の特定、世界的に減少しているけれど日本では少しづつ数が増えているカリガネの追跡、東アジアで減少しているコクガンの正確な繁殖地を特定するための追跡、近年の保全活動で個体数が回復したシジュウカラガンやカリガネの追跡を行っていくことが挙げられるそうです。
これらの課題を解決していくためには、継続した調査を行う人材を各地に育成していくことが重要であることもお話しいただきました。

講演の後に、カリガネが世界的に減少しているのはなぜか、アジアのガンカモ類の個体数調査の信頼性はどのくらいかなどについて質疑応答が交わされました。

今回のオンライン講演は、最大同時に107人の方に視聴いただきました。ご視聴いただいた皆様、ありがとうございました。今回のライブ配信は、以下の同じURLから5月29日までご視聴いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=UF1eez4a45w

次回、6月のテーマトークは、山階鳥類研究所の仲村昇さんに、一部の鳥に見られる冬眠に似た体温低下であるトーパーについてのお話をしていただきます。視聴方法などについては、山階鳥類研究所・我孫子市鳥の博物館ウェブサイトで改めてご案内します。次回もぜひご視聴ください。

参考資料:

雁の里親友の会のウェブサイト
http://shibalabo.eco.coocan.jp/goose/index.htm

ガン・カモ類の研究専門誌「Wildfowl」の2020年号(東アジアのガン・カモ類の渡り・個体群動態の特集号)
https://wildfowl.wwt.org.uk/index.php/wildfowl

希少ガンのシンポジウム(見逃し配信中)
https://www.youtube.com/watch?v=7eQ9rCozLEI