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10月20日に、10月のテーマトークを開催しました。今回は、山階鳥類研究所自然誌研究室室長の山崎剛史さんに、「フクロウの翼のひみつ〜その知られざる苦労〜」と題してお話しいただきました。山崎さんは生物模倣工学(バイオミメティクス)の研究者と共同研究を行い、フクロウの翼の構造について研究されています。
フクロウ類の多くは夜行性で、狩りを行う時に獲物に気付かれないように静かに飛ぶことができます。まず、フクロウが飛んでいるときにどれだけ静かなのか、昼行性の鳥であるハヤブサとハトの羽音と比較した動画を見せていただきました。確かに、同じ場所を同じように飛んでいても、フクロウの翼からはほとんど音が出ていません。

このように静かに飛べる理由は、翼に特殊な構造「セレーション(serration:のこ切りの歯状の縁)」が発達しているからだと言われています。セレーションは、翼の前縁にあるギザギザで、翼で風を切った時にこの細かいギザギザによって空気の流れの乱れが起こらず、風切り音が小さくなるようです。

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▲コミミズク(主に夜行性・哺乳類食)の風切羽に見られるセレーション。

静かに飛ぶことは他の鳥にも有利な特徴のはずですが、不思議なことに、セレーションが見られるのは主にフクロウの仲間に限られます。これはなぜなのでしょうか?セレーションには何かデメリットがあるのでしょうか。
山崎さんたちは、これを確かめるために世界のフクロウ科の様々な大きさ、食性、行動の特性をもった49種の翼にあるセレーションの長さや発達度合いを比較しました。

すると、セレーションの発達度合いには、種ごとに大きな違いがあることが分かりました。セレーションは夜行性の種のほうが昼行性の種よりも発達していました。夜間の狩りには音を消すことが重要ですが、昼間の狩りにはそれほど影響しないのかもしれません。
さらに、主に食べる餌の種によっても大きく異なり、哺乳類食>昆虫食>魚食の順にセレーションが発達していたことが分かりました。水の中では空気中の音はあまり聞こえなくなるので、魚を食べる種にとってはセレーションは必要ないのかもしれません。

これらのことから推測されるのは、狩りをする時間帯、餌とする動物などの生態の変化によって、セレーションがすぐに失われてしまう進化が起こるのではないか、ということです。このことから、セレーションに何らかのデメリットがある可能性が考えられます。
そこで、翼の形状ごとに物理モデルによる解析をおこなった結果では、セレーションは羽ばたき飛翔の効率を下げることが分かったそうです。こまめに羽ばたいて採食することの多い昆虫食のフクロウで、セレーションの発達が悪かった理由は、発達したセレーションは羽ばたきの効率を下げてしまうからである可能性があるとのことでした。

フクロウのなかまは、セレーションによって静かな飛翔を獲得したのと引き換えに、飛びにくさという「苦労」をしていたのかもしれません。

今回は、40名の方にお集まりいただきました。ご参加いただいたみなさま、お話しいただいた山崎さん、ありがとうございました。