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11日2日(土)に、第29回JBF鳥学講座をアビスタホールにて開催しました。今回は「島の鳥類学―南西諸島の鳥をめぐる自然史―」と題して、北海道大学大学院理学研究院教授の高木昌興さんと、山階鳥類研究所保全研究室長の水田拓さんにお話しいただきました。また、2つの講演の終了後に、山階鳥類研究所副所長の尾崎清明さんを交えて、質疑応答とディスカッションを行いました。

トップバッターの高木昌興さんからは、「『島の鳥類学』の面白さ―リュウキュウコノハズクを例に―」と題してお話しいただきました。まず、島に分布する生き物の特徴について理論的な背景をお話しいただきました。動物が島に辿り着くには、海を越えて移動する必要があります。鳥は翼を持って自らの力で移動していくことができますが、島は面積が狭く、環境の多様性に乏しいので、一般的に大陸よりは種数が少なくなります。島にいる生き物の種数には、大陸からの距離と島の面積によって関係する法則があります。また、陸からの距離が近いほど、また面積が大きいほどそこにいる種類の数は多くなります。

科学や人類史に関する著作も多くあるカリフォルニア大学のジャレド・ダイヤモンド教授は、もともとは島の鳥の研究者でした。そのダイヤモンド教授の初期の研究で、カリフォルニア沖のチャネル諸島の鳥類相の経年変化を比較したものがあります。1917年と1968年に鳥の種構成を調べた結果、およそ50年の間に種数は大きく変化していませんでしたが、種構成は大きく変化していました。このように、島では種の絶滅と新たな侵入が繰り返されることで、平衡状態を保つのではないかと考えられています。
また、歴史的に他の地域と分断されている時間が長いと、そこでは新しい種に分かれる進化が起こります。ハワイ諸島やガラパゴス諸島では、大陸からの距離は離れていますが、島の中で起こった適応放散によって、多くの固有の種が分布しています。

日本の島々に目を向けて、伊豆諸島と小笠原諸島を例に考えてみます。本州からの距離が比較的近い伊豆諸島と、1000kmほど離れた小笠原群島では、繁殖する陸鳥の種はそれぞれ31種と13種で、伊豆諸島の方が多いのに対し、固有種・亜種の種数はそれぞれ8種と10種で、小笠原群島の方が多くなっています(絶滅種を含む)。日本の島々にも、これらのルールは当てはまるようです。

続いて、ご自身の研究テーマであるリュウキュウコノハズクの研究についてお話しいただきました。リュウキュウコノハズクは南西諸島全体に分布しますが、沖縄島から宮古島までの慶良間海裂よりも南側では、体が大きく、より低くゆっくり鳴くのに対して、北側の集団では体が小さく、より高く速く鳴くことが高木さんの研究で分かりました。実際に録音した鳴き声を会場で流していただき、島によって鳴き声が大きく異なることが良くわかりました。島ごとに異なる鳥の形態や生態を比較することで、進化の歴史を垣間見ることができるのです。

次に、水田さんからは、「『南西諸島の鳥類学』の面白さ―オオトラツグミを例に―」と題してお話しいただきました。
南西諸島は九州の南から台湾の東までに連なる198の島々からなります。日本の本土の島々と比較すると種数は少ないものの固有種や固有亜種の数は多く、生物多様性の保全上重要な地域とみなされています。
中でも、奄美諸島は鳥類では2種の固有種(ルリカケスとアマミヤマシギ)、4種の固有亜種(オーストンオオアカゲラ、アマミコゲラ、オオトラツグミ、アマミシジュウカラ)が分布しています。鳥類のほかにもアマミノクロウサギやアマミイシカワガエルなど、世界中でここにしかいない貴重な動植物が分布しています。そのことから、政府や鹿児島県では徳之島、沖縄島北部、西表島と併せてユネスコの世界自然遺産への登録を目指しています。

その奄美大島に分布するのがトラツグミの亜種であるオオトラツグミです。本土に分布するトラツグミに良く似ていますが、その名の通り少し体が大きいです。最も大きな違いは鳴き声で、マミジロに似た「キョローン」という声で鳴きます。このことから、トラツグミとは別の種類であると考える人もいます。

オオトラツグミは1905年に鳥類学者の小川三紀(おがわ・みのり)によって新種として記載されました。当時から数の少ない鳥と考えられていましたが、第二次世界大戦の後にアメリカから返還された1953年以降、森林伐採が進んだこと、1979年からハブの対策を目的としたマングースの放獣が行われたことによってさらに数を減らしてしまいました。1990年代に奄美野鳥の会によって行われた調査では個体数はわずか58羽ほどであることが分かりました。

水田さんは2006年に奄美に赴任され、この減少したオオトラツグミの保全に携わることになりました。絶滅危惧種を守るためには、どこに分布し、何を食べ、どのように繁殖し、何羽いるのか、なぜ減っているのかを調べる必要があります。水田さんはこれらの問題に取り組むために、オオトラツグミのこのような生態を調査することにしました。

地元の自然愛好家の人たちと協力して奄美大島内での分布をさえずっている個体の聞き取りによって調べたところ、島の中部から南部、標高と林齢が高いところ、マングースが少ないところで数が多いことが分かりました。水田さんが調べるまでオオトラツグミの巣はわずか3巣しか見つかっていませんでしたが、これまでに95巣が見つかり、太い木の又や岩棚に作られていることが判明しました。見つけた巣のうち11巣で親がヒナに持ってくる餌を観察したところ、その80%がミミズであることが分かりました。さらに、前述のさえずり調査結果から、現在では2000-5000羽程度が生息し、個体数は増加傾向にあることが分かりました。森林の保全やマングースの駆除がうまくいっている成果の一つと考えられます。

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▲質疑応答のようす。左から、尾崎さん、高木さん、水田さん、平岡さん(司会)。

質疑応答とディスカッションの時間では、まず尾崎さんからヤンバルクイナの発見とその後の保全活動に関する紹介があり、その後、会場からの質問を受けました。リュウキュウコノハズクの地理的変異はどのような生態的な意味があるのか、奄美大島で進化を遂げた固有種には特別な能力があるのか?といった質問がありました。

続けて、登壇者3名によるディスカッションを行いました。鳥は翼があるのになぜ固有種になる?という平岡さんからの質問に対しては、「移動しないほうが沢山の子を残すことができるような環境で進化する」「鳥は意外と保守的で、生まれ育った環境からあまり大きく分散しない傾向がある」ことが島の鳥の特徴としてあげられるのではないか、というお話がありました。最後に、3人の登壇者の方に島でのバードウオッチングの楽しみ方について伺いました。島と本土との違い、島ごとの行動の違い、渡り鳥の渡り経路について注目して観察を楽しむと、より深く島でのバードウオッチングを楽しめるのでは、とのお答えをいただきました。

今回の鳥学講座では、島の鳥たちの観察の楽しみ方について、単に本土と種や亜種が違うというだけではないさまざまな視点をご紹介いただけたと思います。

ライブビューイングの会場と併せて172名の方にご来場いただきました。ご登壇いただいた高木さん、水田さん、尾崎さん、ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。

当日のレジュメは、以下からもご覧いただけます。
http://www.yamashina.or.jp/hp/event/images/chogaku_koza19.pdf

今回のお話のもとになった書籍は、こちらです。
鳥の博物館ミュージアムショップでも11月中旬以降に扱う予定ですので、ぜひご購入ください。