null
写真:移動記録装置を装着されたハリオアマツバメ(撮影:今野怜さん)

2021年10月2日(土)に、令和3年度の鳥博セミナーをオンライン配信にて開催しました。今回は「ハリオアマツバメの繁殖生態と渡り研究の最前線」と題して、酪農学園大学准教授の森 さやかさんにお話しいただきました。

ハリオアマツバメは大型のアマツバメの仲間で、日本では夏鳥として北海道や本州の高地に渡来します。空中で昆虫をとらえて食べる生態や長い鎌形の翼などの形態はツバメによく似ていますが、実はスズメ目のツバメとは類縁が遠く、ヨタカやハチドリに近い仲間です。
本種は世界で最も早い速度で水平飛行ができる鳥といわれており、その飛行速度は時速170kmに達するとされることもあるようです。しかし、その計測方法などは公表されておらず、実際にどのくらいの速度で飛ぶのかは、実はまだはっきりとわかっていないそうです。

日本におけるハリオアマツバメの生態については、森さんの共同研究者である米川さんが1980年代から長年研究を続けてこられ、本種が木の洞を好んで利用すること、体のわりに非常に大きな木の洞を利用することが明らかになってきました。森さんたちは、生態研究をさらに進めるために、さまざまな条件で巣箱の利用率や繁殖の成功率を調査され、試行錯誤しながら改良を重ねているそうです。

十勝平野にかけた巣箱で繁殖しているハリオアマツバメに移動記録装置を装着して調べたところ、高い飛翔能力を活かして、最大で50平方キロメートルほどの範囲で餌を取りに行っていることが明らかになりました。餌生物は主にハチ目の昆虫で、そのほとんどは結婚飛行中のケアリ属だそうです。羽アリの出す性フェロモンを嗅覚で感知している可能性が、野外実験によって示唆されたそうです。

渡りを調べるための小型の機器であるジオロケ―タを2020年までに25個体に取り付け、そのうち5個体から渡り経路のデータを得ることができたそうです。北海道から越冬地のオーストラリアまでを往復し、大きく8の字を描くルートで春と秋で異なる経路を通って渡りをしていることが明らかになりました。
今後は、繁殖、採食、渡りなどのさまざまな謎を明らかにし、空の生活者としてハリオアマツバメがどのように暮らしているのかを明らかにしていきたいとのことです。

講演のあとには、ハリオアマツバメの尾羽の“針”の機能、巣箱の利用率を高め、捕食率を下げるにはどうしたらよいか、渡りの時に飛ぶ速さなどについて、多くの質問が寄せられ、森さんにお答えいただきました。
今回の鳥学講座は、最大同時に175人の方にご視聴いただきました。お話しいただいた森さん、ご参加いただいたみなさま、ありがとうございました。

今回の講演は10月9日(土)まで、鳥の博物館のYoutubeチャンネルにて見逃し配信を行っています。ご興味があるけれど見逃した方や、もう一度見たい方は以下のリンクからご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=hVMz4EGcQyg

企画展「鳥のチャンピオン」では、今回ご紹介いただいたハリオアマツバメを含む様々な鳥たちのすごい能力についてご紹介しています。11月28日(日)までの開催ですので、ぜひ鳥の博物館にもお越しください。


★参考資料
・今回の講演のレジュメ(PDF直リンク)
http://www.city.abiko.chiba.jp/bird-mus/gyoji/event/index.files/torihaku_seminar202109.pdf

・米川さんによるハリオアマツバメの動画
https://www.youtube.com/watch?v=1SPpRKoVViA&t=1s

・ハリオアマツバメの渡り経路の研究のプレスリリース
https://www.rakuno.ac.jp/archives/14797.html