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カテゴリ: General
投稿者: odaya
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2020年2月23日(日)に、鳥博セミナー「ハクセキレイの標識調査」を開催しました。「ハクセキ道場」を主宰されている亀谷辰朗さんと森本元さんのお二人にお話しいただきました。今回のセミナーは、開催中の企画展「バンディング展〜足環でわかる鳥の渡り〜」の連携企画として開催したものです。

まず、森本さんにセミナーの趣旨についてお話しいただいたあと、亀谷さんにハクセキレイと亀谷さんたちが実施する「ハクセキ道場」について詳しくご紹介いただきました。

ハクセキレイは、私たちにも身近な白黒の小鳥で、スズメ目セキレイ科に分類されます。セキレイの仲間は歩くときに尾を上下に振ることが特徴で、セキレイ属の属名Motacillaは小さな(尾を)動かすもの、という意味のラテン語だそうです。

ハクセキレイはユーラシア大陸に広く分布し、地域によって羽色などが異なるため、11の亜種に分けられています。このうち、日本では亜種ハクセキレイが普通に分布するほか、旅鳥として亜種ホオジロハクセキレイ、亜種タイワンハクセキレイなどが渡来します。ほか、まれな旅鳥や迷鳥として他の数亜種も記録されています。

鳥に足環を付けて渡りなどを調べるバンディング(標識調査)は、各地で行われていますが、ハクセキレイの場合は他の調査と異なる点がいくつかあります。まず、普通は日中にかすみ網などの道具を設置して鳥がかかるのを待つのに対し、ハクセキレイの調査では人が網を動かし、夜明け前にねぐらで一気に捕獲します。

この調査は現在では11月から4月の越冬期に行われ、月に1回、東京都内の川に架かる橋の上で実施されています。調査の開始は1973年にさかのぼりますが、亀谷さんたちのグループがこれを引き継ぐ形で開始されたのは1997年で、それから20年以上、場所を変えつつも継続されています。2019年12月までに185回の調査を行われ、4856羽のハクセキレイに足環を付けて放鳥されています。

亜種ハクセキレイは世界のハクセキレイの亜種の中で最も翼の白色部が広く、性と年齢による違いがはっきりしています。しかし、その一方で中間的な個体も多く、その識別は一筋縄ではいかない部分があるようです。今回は、鳥の博物館に所蔵している片方の翼を開いた状態の本剥製を使って、その概要についてお話しいただきました。

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▲標本を使って性と年齢の識別について解説する亀谷さん。

また、時々捕獲される過眼線のない個体については、翼の白色部の広さや大きい計測値から、亜種ホオジロハクセキレイではなく亜種ハクセキレイの羽色の変異だと思われることについてもご紹介いただきました。

続いて、森本さんに、標識調査でわかったハクセキレイの生態と足指の欠損についてお話しいただきました。ハクセキレイはかつては本州中部以南では冬鳥でしたが、1950年代ごろからより南の地域でも繁殖するようになり、1970-80年代からは関東地方で繁殖するようになりました。この拡大傾向は現在でも続いているようです。ハクセキ道場での捕獲調査のデータを見ると、越冬期に捕獲数が多く、越冬個体がより北の地域からやってきていることがわかります。

ハクセキレイは都市の環境に適応し、コンクリートの駐車場などで餌をとっているのもよく見かけますが、ねぐらも人工物を利用するようになっています。ハクセキ道場の調査が行われている橋の下や、電線、看板の裏など、さまざまな場所を使っています。

ハクセキレイを越冬期に観察すると、2羽で行動しているのをよく見かけます。これらは繁殖するつがいなのかと思いきや、実はそうではなく、冬だけオーナーのいる縄張りに居候している1羽がくっついて(サテライトと呼ぶそうです)行動しているのだそうです。ヨーロッパで行われた実験では、餌の量が十分に得られる場合はオーナーはこのサテライトを受け入れるが、餌がない場合は追い出してしまうそうです。このように、つがいや血縁関係のない2羽の鳥が行動を共にするのはあまりないケースのようです。

森本さんたちがハクセキレイの標識調査を行っていると、足の指が欠損している個体が多く含まれることに気が付きました。他の鳥に比べてかなり多く、ときには全体の5%ほどにもなることもあるそうです。正常な個体と体重を比較してみたところ、欠損のある個体はより体重が軽いようで、うまく餌を捕れていない可能性があるとのことです。これらの原因は、ビニールひもなどの細い人工物が足に絡んで起こるケースが多いとのことで、都市の鳥に人間のゴミの影響があることが標識(捕獲)調査によっても明らかになっています。

全体を通して、継続して行われているハクセキレイの標識調査によって、多くの新知見が明らかになってきていることをお話しいただきました。質疑応答の時間では、ねぐらの利用の季節変化、ハクセキレイの食べ物や、セグロセキレイとのすみわけなどについて活発な議論が交わされました。今回は43名の方にご参加いただきました。
ご参加いただいたみなさま、講演いただいた亀谷さん、森本さん、どうもありがとうございました。

企画展「バンディング展〜足環でわかる鳥の渡り〜」は、2020年6月14日(日)まで開催予定です。展示の中でハクセキレイの渡りや性と年齢の識別についてもご紹介しておりますので、ご興味ある方はぜひご来館ください。

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投稿者: odaya
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▲構造色の羽毛をもつカワセミ

2月15日に、2020年2月のテーマトークを開催しました。今回は、山階鳥類研究所自然誌研究室・保全研究室研究員の森本元さんに、「鳥の色彩と構造色」と題してお話しいただきました。

鳥は、視覚とともに色覚の発達した生物であると考えられており、私たちに見えない紫外線も見えるため、4原色で世界を見ています。鳥の持つ色はさまざまで、カワセミのようにキラキラした青色の鳥もいれば、オオバンのように全身黒色の羽色を持つ鳥もいます。

鳥の多様な羽色を形作っている要素は2つに分けられます。光が当たった時に吸収されなかった色の光が反射して見える色素色(しきそしょく)と、細かい構造によって強調された色の光が見える構造色(こうぞうしょく)です。たとえば、牛乳の白は、脂肪分のコロイド粒子によって光の散乱が起こっていることで見える構造色です。構造色はさまざまな生き物で見られますが、たとえば昆虫ではカラスアゲハやタマムシなどのキラキラ光る翅の色は構造色です。

鳥の色素は、ほとんどがメラニン(黒・茶色系)とカロテノイド(黄・赤系)で構成されています。一方で、青や紫などのそれ以外の色は、ほとんどが構造色によって見えています。

鳥の羽毛の青色の構造色には、カワセミのようにキラキラ光る虹色の構造色と、コルリやイソヒヨドリのように非虹色のものがあります。これらにはなぜこのような違いがあるのかを、詳しく説明していただきました。

青色の構造色だけでも、羽毛の羽枝や小羽枝にある構造の種類によってさまざまなパターンがあるそうです。たとえば、カラス類やドバトの首の金属光沢は、ケラチンが形作る膜構造による干渉が原因ですが、カワセミの青色の羽毛は、スポンジ構造によって青色が強調されていることが原因であることが、電子顕微鏡での構造研究や光の研究から明らかになっているそうです。

また、色素であるメラニンの配置によって構造色が見える場合もあり、クジャクの青色の羽毛はそのような構造で作られているそうです。森本さんたちのグループは、そのような点に着目し、人工的にメラニンの配列を調整することで、様々な色の構造色を実際に作り出すことに成功されました。自然の性質を知ることで、新しい技術が生み出される可能性についても知ることができました。

今回は、40名の方にお集まりいただきました。ご参加いただいたみなさま、お話しいただいた森本さん、ありがとうございました。
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