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3月16日に、3月のテーマトークを開催しました。今回は、山階鳥類研究所副所長の尾崎清明さんに、「ヤンバルクイナ野生復帰の現状と課題 〜放鳥の技術開発から〜」と題してお話しいただきました。

尾崎さんは、1981年のヤンバルクイナ発見の際から、チームの一員として研究や保全に携わってこられています。今回は、人工繁殖させたヤンバルクイナを野生に返すための試みについてお話しいただきました。

ヤンバルクイナはクイナ科ニュージーランドクイナ属のクイナの1種で、フィリピンやインドネシアに分布しているムナオビクイナに近縁な種です。この仲間は太平洋の島々に分布しており、飛べない種類が多く含まれています。そのため、人が持ち込んだネコやネズミなどの外来種に捕食されやすく、多くの種が絶滅してしまったり、絶滅が危惧されています。世界で沖縄島だけに分布するヤンバルクイナもその一つで、屋外にいるネコや、ハブの駆除のために持ち込まれたマングースなどによって捕食されたことによって数を減らし、すでに発見時から絶滅が危惧されていました。

ヤンバルクイナの個体数を回復させるため、野外でのマングースの駆除と合わせて、飼育下で個体数を増やすプロジェクトが2005年からスタートしました。飼育下での繁殖が成功し、個体数が増えてきたのと合わせて、2014年から試験放鳥がはじまりました。しかし、2017年までの放鳥では、40%以上の個体が1カ月以内に死亡してしまったそうです。尾崎さんたちが発信器で追跡したところ、その原因はほとんどがカラスやハブ、イヌ・ネコによる捕食でした。また、野外で捕獲して追跡した個体と比べて、捕食による死亡率が高いことも分かりました。人工繁殖で生まれた個体は、自然下であれば親から教わることのできる天敵の脅威を学習する機会がないためではないかと推測されました。

そこで、尾崎さんたちは飼育下で繁殖させたヤンバルクイナに天敵のハブの脅威を教える実験を始めました。具体的には、飼育ケージの中にハブの模型を入れて、同時に録音した親の警戒声をスピーカーで流すことで、ハブが危険な存在であるとヒナたちに学習させることを試みました。さらに、人工飼育個体は放鳥後に人工物の近くを好む習性があることから、ネコなどに捕食されてしまうリスクが高まっていると考えられるため、放鳥地をなるべく人工物の少ない2か所に絞って検証を行いました。

その結果、2018年に放鳥した個体はまだ全てが生存しているそうで、これらの試みは効果があったと考えられるとのことです。また、2018年に初めて、放鳥個体での野外での繁殖が確認されました。ヤンバルクイナの保全には、他にも交通事故など様々な課題がありますが、人工飼育個体の放鳥が野外の個体群の補強につながっているのは明るいニュースといえそうです。今後は、放鳥初期の生存率を高めるため、さらに野外の生活に馴らす技術の開発に取り組んでいきたいとのことでした。

今回は、34名の方にお集まりいただきました。ご参加いただいたみなさま、お話しいただいた尾崎さん、ありがとうございました。