6月10日に、山階鳥類研究所の研究員の方に最新の研究内容についてお話しいただく「テーマトーク」を開催しました。30名の方にご参加いただきました。

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今回は、浅井芝樹さん(山階鳥類研究所 自然誌研究室研究員)に「その学名でいいのか?-日本鳥類目録第7版を評価する」と題してお話しいただきました。

鳥に関する学術団体の日本鳥学会では、およそ10年ごとに日本に分布する鳥類のリストを作成して「日本鳥類目録」として出版しています。鳥類目録には、「スズメ」などの標準和名という日本語の名前の他に、学名という世界共通の名前が記載されています。
たとえばスズメでは、以下の様に記載されています。

569.Passer montanus (Linnaeus, 1758) スズメ

Passer montanusが学名で、Passerを属名、montanusを種小名といいます。Linnaeusは名前を付けた人(記載した人)、1758は記載された文献の出版年です。569は目録の通し番号です。このように、種の学名は一般的に属名、種小名、命名者、命名年の4語であらわされます。

前回の日本鳥類目録は2012年に出版されたのですが、最近の分類学の発展によって、多くの種で前回の目録第6版から学名が変更されています。そこで、浅井さんたちは目録7版に記載されている学名が正しいのかどうかについて、スズメ目の15の科の鳥について評価を行いました。

6版から7版で学名が変更された例で「正しい」ものとしては、オナガの種小名の変更、メジロの記載年の変更などがありました。これらはラテン語の綴り方の誤りや記載年の先取権の問題が正しく解決された例とのことです。また、シジュウカラを始め多くの種が、最近の分子系統学の発展により、それに即した形に分類も変更されました。

6版から7版で学名が変更された例で「正しくない」ものとしては、ニュウナイスズメの例があります。目録7版では、Passer rutilans (Temminck, 1836)という学名が使われていますが、これは6版に記載されている1835年の出版年から修正されています。これは、いくつもの分冊によって記載されたために、どの年に出されたものか混乱していたためだということです。
しかし、さらに過去の文献をよく調べたMlíkovskýさんが2011年に出した論文によると、同じニュウナイスズメに対して、Gouldさんによってcinnamomeusという種小名を記載した文献が同じ年の4月8日に記載されていることが分かりました。一方で、Temminckさんの記載した文献は出版の日付が不明で、国際的な動物の命名ルールによると、日付が不明の場合は12月31日として扱うことになっているので、Gouldさんの命名したcinnamomeusがニュウナイスズメの種小名として適切であるとのことです。

「正しい」学名を目録に掲載するためには、とても古いものを含めて多くの文献を調査する必要があり、たいへんな努力が必要だということがよくわかるお話でした。浅井さん、ありがとうございました。
お話しいただいた内容については、以下の日本語の論文(誰でも読むことが出来るようになっています)でご興味ある方はご覧ください。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjo/65/2/65_105/_article/-char/ja/