毎月恒例のテーマトークを開催しました。今回は、公益財団法人山階鳥類研究所自然誌研究室研究員の浅井芝樹さんにお話ししていただきました。
 テーマは、「日本に生息するミソサザイに地理的な違いはあるか?」でした。
 1922年に出版された日本鳥類目録では、ミソサザイという種に7亜種含まれていました。つまり、色や形のちがいで7つの地理的なまとまりに分けられていました。ところが、目録が版を重ねるにつれて、まとまりが4つ(4亜種)になり、最近出版された第7版では3つ(3亜種)と変化しています。
 日本鳥類目録第7版の編集にたずさわった、浅井さんは、亜種数の変遷について文献を調査してみたところ、亜種を統合した科学的な根拠が論文として示されていないことに気がつきました。
 そこで、この変遷の妥当性を、最近急速に進歩した分子系統学的方法(DNAの塩基配列を比較する方法)を用いて、類縁関係を調べることで検証したそうです。現在までの研究結果から、伊豆諸島にすむ個体群とそれ以外(北海道、九州、屋久島に生息する)の個体群の2つに分かれる結果が出たそうです。つまり、日本鳥類目録が最初に出版された時に示された7つの地域によるちがいは、少なくとも分子系統学的方法では2つしか見つからなかったことになります。
 ただし、色や形などの進化が早く進み、分子系統学的方法では検出できない可能性もあり、さらに、形態のちがいを細かく検証する必要があるそうです。
 分子系統学的な研究結果を、どのように生物の分類に活かすのか、そして系統学を分類学にどのように取り入れるべきか、いろいろ考えさせられる示唆に富んだお話でした。