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7月20日に、2019年7月のテーマトークを開催しました。今回は、山階鳥類研究所保全研究室研究員の仲村昇さんに、「渡り鳥のふしぎ:春と秋で違うルートを使う種類がいるのはなぜ?」と題してお話しいただきました。

鳥の行う渡りとは、繁殖地と非繁殖地の間の往復の移動のことを指します。そのほかの移動、たとえば、日々の餌場と休息場所の間の移動や、生まれた場所からの分散は、渡りとは区別されます。この渡りルートの往復を、同じルートで行き来する種と、違うルートを使う種の両方が知られています。このような渡りの形態を、loop migration(ループ型移動)といいます。

loop migrationを行うかどうかは、季節によって異なる中継地での餌の有無、渡りに適した風が吹くかどうかなどが関係していると考えられています。近年の衛星追跡やデータロガーの開発によって沢山の鳥の移動経路が分かって来ましたが、その中からループ型移動を行うことが判明した種の渡り経路の研究成果をご紹介いただきました。

日本で繁殖するハチクマは、インドネシアなどの越冬地まで渡りをしますが、その経路は春と秋で異なることが知られています。秋は日本列島を南下した後、九州の西端から飛び立って東シナ海を横断して大陸に入りますが、春の渡りでは、越冬地から北上したのち朝鮮半島の北側まで回り込み、対馬を通って日本に帰ってきます。これは、複数個体の追跡によって判明した固定した渡り経路で、たまたま1個体がこのように往復したというだけではありません。

アラスカで繁殖するオオソリハシシギやムナグロは、それぞれニュージーランドや太平洋の島々で冬を過ごしますが、彼らは大規模なループ型移動を行います。繁殖を追えた成鳥は、アラスカから一直線にどこにも立ち寄ることなく越冬地を目指します。オオソリハシシギの渡りはこれまでに知られている動物のノンストップの移動としては最も長いもので、およそ11,000kmを8日間で飛んだ記録があります。一方、春の渡りは北西に飛んで日本や中国などの東アジアを目指します。そこでしばらく栄養補給をした後、再び繁殖地のアラスカを目指して一気に渡ります。

他にも、ヨーロッパからアフリカに渡るカッコウや、北米から中米に渡るミドリツバメで、ループ型移動の例をご紹介いただきました。また、渡り鳥の高い定位能力や、本能的に備わっている渡りの衝動によってこうした渡りが行われていることもお話しいただきました。質疑応答では渡り鳥に関する沢山の質問が飛び交いました。

今回は、52名の方にお集まりいただきました。ご参加いただいたみなさま、お話しいただいた仲村さん、ありがとうございました。